普通の夜ではなかった。
川又(かわまた)ほのかちゃんと一緒のベッドで寝ているのも普通とは違うシチュエーション。だけど、ほのかちゃんとのベッドの共有ならばこれまで何回も経験している。
この夜を普通とは違う夜にしている最大の要因。
それは、ほのかちゃんの……止まない泣き声。
× × ×
日曜が月曜に変わる一歩手前。
泣き止まないほのかちゃんにわたしは直面している。
啜(すす)り泣きの声が大きくなっていったかと思うと、激しい泣き叫びが部屋全体に響き渡る……その繰り返し。
LEDの灯らない真っ暗で真っ黒の室内。深い闇が、ほのかちゃんの泣き声を絶え間なく切実にさせる。
ほのかちゃんのご両親に泣き声が届いているのかは分からない。ご両親の寝室はそう遠くない所にあるんだけど、ほのかちゃんママやほのかちゃんパパの足音は今のトコロ聞こえてきていない。もしかすると、娘が号泣しているのは察知しているけど、全てをわたしに託しているのかもしれない。
右腕を掴んできたのが分かった。縋(すが)るように掴んできた。
しゃくり上げる声が次第に荒くなってくる。苦しいから、苦し過ぎるから、息苦しくなるまで悲しみを表現するしかなくなる。
右腕を掴んでくるチカラが弱くなってくる。
良いタイミング、だから、
「お母さん代わりで、お姉さん代わりね……今夜のわたしは」
と優しく言ってあげたあとで、ほのかちゃんの腕から右腕を自然な感じで離して、それから、ショートボブの後頭部を右手のひらでナデナデし始めてあげる。
「せぇんぱぁい」
悲しみがダイレクトに伝わってくる声音。
「せんぱぁい、羽田(はねだ)せんぱぁい……。ツラいよぉ……」
タメ口になってしまうのも必然だ。
誇れないから弱点になる胸に、やがて、ほのかちゃんのオデコの感触が到来する。
呻(うめ)くように、
「シツレン、って、こんなにカンタンにゼツボウをよびおこすモノだなんて、わたし、しらなかったっ」
と言うほのかちゃんの、切実さ……。
わたしの中の全ての『共感のチカラ』を動員して、彼女の悲しみと痛みと傷(いた)みを、わたしの内部へと染み込ませていく。
こみ上げてくるモノが、わたしにも、ある。
だけど、この場においてわたしは、ほのかちゃんのお母さん役とお姉さん役を務めなきゃいけないんだから、眼を滲ませる手前で、踏みとどまる。
小さめの背中に両腕を回して、抱き込んでいく。
わたしの彼氏のお母さんである明日美子(あすみこ)さんが、わたしがダメになっちゃった時、しばしば、ダブルベッドでカラダを包み込んでくれた。
わたし、ほのかちゃんを、上手に包み込めてるかな?
明日美子さんみたいな域にはなかなか到達できないけど……それでも、頑張んなきゃ。