川又家(かわまたけ)の3人と共に食べた夕ご飯はとっても美味しかった。試験終了後の開放感だけではなく、調理を担当してくださったお母さんの「まごころ」もお料理をとっても美味しくしてくれていたのだった。
× × ×
日曜夜の川又ほのかちゃんのお部屋に入っている。
床に設置した折りたたみ式のテーブル上にお酒が並んでいる。缶ビールが3本、日本酒のボトルが2本。金色に輝く缶ビールはほのかちゃんが飲む分、小さめの日本酒のボトルはわたしが飲む分。
わたしはロックグラスに日本酒を注ぎ入れたあとで、
「乾杯の前に、ほのかちゃんに『約束』しておきたいの」
真向かいに腰を下ろしているほのかちゃんは、
「缶ビールを絶対に横取りしないって『約束』、ですよね」
よく分かってるんじゃないの。
「炭酸が入った液体を少しでも口につけたら、たちまち暴走しちゃうからね。自分で自分をコントロールできないと、あなたの先輩女子として失格だから」
「……羽田(はねだ)センパイにしては、マジメですね」
おおー。
「わたし、安心したわ。そういうコトを口から出せるエネルギーが、あなたの中に残ってて」
鋭(するど)めのわたしの指摘に対する反応は視線の急降下だった。
視線を上昇できないままに、ほのかちゃんは金色のビール缶を右手で鷲掴みにする。
その直後に、わたしのロックグラスにビール缶をぶつけてくる。
小気味良い音が響いたかと思うと、ビール缶の飲み口を口に押し当てる愛すべき後輩女子の姿が眼に映り込んできたのだった。
× × ×
「ねーねー、そっち側に回ってもいい?」
わたしのそんな要求に直面して、
「えっ」
と、ほのかちゃんが短く声を放つ。
「寄り添いたいのよ。寄り添ってあげたいのよ」
狼狽(うろた)え気味のほのかちゃんに向けて愛情たっぷりの「先輩スマイル」をプレゼントしてあげると同時に、愛情を120%詰め込んだコトバもプレゼントしてあげる。
学年内で常に成績最上位を争うほど国語が得意だったほのかちゃんは文脈を読み取るのが得意だから、わたしがどういうキモチでもって『寄り添ってあげたいのよ』と言ったのかも容易に理解するコトができる。
その証拠に、ビール缶から指を離して約10秒間口を引き結んだあとで、
「センパイ、『傷のお手当て』がしたくて、採用試験を受け終わった直後にわたしの家にやって来たんですね」
「ご明答」
即座に応えてあげてから、
「だって、ダイスキな川又ほのかちゃんなんだもの。『傷のお手当て』のためならば、世界中のどこに居たって駆けつけてあげるわ」
ダイスキな後輩女子の柔らかいほっぺたに赤みが兆す。
ふにふにと柔らかいお肌の発熱を抑えられない。当然の成り行きだと思う。
わたしはもう既に腰を浮かせている。逆サイドの後輩女子の傍(そば)にいつでも行ける。
× × ×
「月曜日の前日の夜でしょ? 仕事場に向かう前に、『傷口の消毒』は絶対にやっておくべきだって思うわ」
右隣で縮こまり気味のほのかちゃんは飲み切ったビール缶に視線を傾ける。
声を出しあぐねている御様子だ。
可愛いから、
「できるなら、傷付いたキモチの中身を打ち明けてほしい。ふたりきりの空間なんだから。わたしは、秘密を守れる先輩女子なんだから」
と、お願いしてみる。
後輩女子はなかなか口を開けない。まだ、コトバをカタチにできない。
打ち明ける準備ができていない後輩女子、なんだけど……左肩を寄せてきてわたしの右腕に軽く触れてきてくれるから、なんとも言えず、嬉しくってくすぐったくなってくる。
スキンシップにはスキンシップで応えてあげなきゃ……だな。
どの部分からフニフニしてあげようかしら。