静寂が漂うマンションの部屋。おれ独りきりの日曜のマンション部屋は、そこはかとなく寂しい。
パートナー不在の中で調理した海老チャーハンがイマイチ美味くなかったのには、おそらく、パートナー不在が影響していて……。
昼飯のあとで、リビングのカーペットに寝転んでしまう。いつもは、リビングで横になるコトなんてほとんど無いのに。
天井を眺めていると、余計な不安が頭の中に割り込んできてしまう。もちろん、『おれのパートナーは、ちゃんと筆記試験を受けられているだろうか?』というような不安だ。
昨年度の試験でしくじったコトが、あいつの平常心を揺らがせたりしていないだろうか。あいつがテンパっていないかどうか、とても気がかりだ。
リビングの真ん中辺りの小テーブルに置いておいたおれのスマートフォンが、いきなり震え出した。
身を起こして、画面を見たら、
【葉山むつみ】
という5文字が……。
心地良くない汗が、ダラリと背すじを滑る。
× × ×
『戸部(とべ)くん寂しいんでしょ、孤独なんでしょ。あなたの姿を実際に見られなくたって分かるわぁ』
葉山むつみのそんな陽気な声により、おれの胃袋に痛みが走る。
『羽田愛(はねだ あい)さんって女の子の不在が、あなたをジワジワと追い詰めてくる』
「……追い詰められてるワケじゃないし」
『ホントぉ!?』
うるせえ。
『わたし、是非とも『穴埋め』をしてあげたかったのよ。寂しさや孤独っていう名前の穴を、埋めてあげたくって。あなたに今日電話するのは、1週間前から既に決めてたわ』
うるせえよおい。
言い回しがいつにも増して気色悪いし、おれにテレフォンしてくるのも、1週間前から既に決めてただと……?
「長電話は止(よ)してくれ、葉山」
『ヤダ。ある程度の通話時間がないと、あなたの穴を埋めてあげられない』
コイツ……!
× × ×
おれの寂しさや孤独への気配りも最初だけで、葉山の趣味たる『お馬さん』のコトなどに話題は移っていってしまったのであった。
『上半期G1を長々と振り返り過ぎだろ』とツッコミを入れたら、『あなた、自分の妹さんが競馬記者だっていうのに、お馬さんに関心が無いワケ!? ジュウリョクピエロが勝ったオークスとか、一般ニュースでもあれだけ取り上げられてたってゆーのに!!』と、葉山の声が暴れ出した……。
「知っとるわ、この前のオークスのコトも、ジュウリョクピエロのコトも、今村聖奈(いまむら せいな)のコトも」
『今村聖奈騎手が、あなたの妹さんのあすかちゃんと同年産まれなコトも?』
「それも、インプット済みだ」
『ふぅん』
おれをどこまでも軽んじるような声音で相づちを打ってきやがる葉山むつみが、
『――ところで、話は、大きく変わるんだけど』
と告げてくる。
おれのココロが不穏によって締め付けられていく。
握る手に余分なチカラが入り過ぎていたので、スマホを小テーブルの上に置いた。
その途端に、
『戸部くんって、オトコ友だち、いないわけ??』
という疑問の声が、スマホから……!!
『前から、不自然だって感じてたんだけど。あなたから、同年代のオトコ友だちの話とか、一切聞かされたコト無いのよね。普通は、大学みたいな場で、同学年の同性の友だちが、1人や2人は出来るモノだって認識なんだけど』
……おれは、感情がグニュグニュしているのを自覚しながら、
「オトコの知り合いが、居ないワケじゃないから」
と声を絞り出す、のだが、
『あなたの言う『オトコの知り合い』って、みーんな、年下か年上でしょ??』
と、さらに追い込まれていく。
『同い年の『マブダチ』みたいな存在が居ないのを、少しも隠し切れてないじゃないの』
やめーや、『マブダチ』とか、そーゆー表現は。
おまえは、見た目だけは端麗なんだから、昭和っぽくて俗っぽいコトバを使うのは、もっと抑制するべきだぞ!?
『オンナノコの知り合いの方が多いって事実は、もう浸透済み。……ま、それはそれで、良いんだけど』
少しコトバを切ってから、葉山は、
『同い年のオトコ友だち作った方が、絶対楽しいと思うんだけどなーっ』
と、弄(もてあそ)ぶが如き声で言ってくる。
テンパり始めているおれの口から、反射的に、衝動的に、
「おっ、おまえには……同い年の幼馴染のオトコノコが、常に寄り添ってくれてるから、いいよなあ!?」
という言(げん)が、流れ出る。
『何を言うの戸部くん!? あなたに同い年のオトコ友だちが居ないコトと、わたしにとってのキョウくんの存在のコトとは、何の関係も無いじゃないの!?』
案の定の、葉山からの罵倒。
……苦し紛れに、本当に苦し紛れに、
「な、なぁ、葉山よ。おまえがダイスキな、おまえと同い年の幼馴染のオトコノコである鎌倉(かまくら)キョウくんは、現在(いま)、おまえの近くに居たりしないんか」
約5秒間の空白のあとで、
『……居る。今さっき、わたしのお部屋に入ってきてくれたトコロ』
情報を得たおれは、卓上のスマホに向かってかなり前のめりになって、
「おれ、キョウくんの声が……少しだけ、聞きたいかも」
『はぃ!?!?』
「キョウくん、おれと同じ年度産まれの男子だから……もっと、お近付きになりたいって、そんなキモチがあって」
『……キョウくんと〝おともだち〟になりたいってコトかしら』
「……イケないんか?」
『この場で通話するのは、百歩譲って許してあげるけど。〝おともだち〟になるのを許すかどうかは、全然別の問題だから』
「ガードが固いな」
『当たり前でしょ』
「彼の存在が、宇宙で一番大切なんだな……」
『あっあたりまえでしょッ』