【愛の◯◯】形容しがたいあすかさんが追い込んでくる

 

月曜日の昼間から生ビール中ジョッキを飲む羽目になった。あすかさんが自分の分だけでなくぼくの分も注文したのだ。あすかさんの休日は月曜・火曜だからキモチは分かるけど、つきあわされる側のコトも少しは考慮してほしい。

丸テーブルの上に中ジョッキをぼくが置く。置く勢いが良過ぎて、ガチャン! という上品ではない音が出てしまう。

あすかさんも丸テーブルの上に中ジョッキを置く。コトリ、という音しか出ない。とても静かなジョッキの置き方。とても上品でオトナびた置き方。

今日のあすかさんは羽織っているモノも上品だ。黒地のTシャツの真ん中辺りには『The Black Crowes』という黄色の横文字。アメリカのロックバンド名が派手に描かれている黒地Tシャツなワケだが、その上に羽織っている薄手のカーディガンが上品かつ涼やかだから、コントラストが強く印象付けられる。

「なあに? わたしの上半身がそんなに気になるの?」

キワドい問いが投げ掛けられてきてしまった。いつの間にか彼女のトップスに吸い寄せられるようになっていた。それを彼女は見逃さなかった。

「中学生じゃないんだから」

声で弄(もてあそ)んでくる彼女は、

「今度わたしのTシャツの中央部にある文字を読んでこようとしたら、罰金5000円だからね」

と言って、ぼくに冷や汗を流させてくる。

 

× × ×

 

「火照っちゃった」

あすかさんがいきなり言ってきた。

新宿の東側中心部からかなり離れた通りを歩いている。並木の梢から梅雨晴れの光が漏れ出してきている。

「もう少し歩いたら、小規模の公園があるみたいですが」

Googleマップを確認しながら言うぼくは、

「休みますか?」

あすかさんは、

「うん。休む」

と言って、

「その公園、自販機とかあるの」

「自販機情報は無いですね」

「行ってみなきゃわかんないか」

「公園の至近距離にミ◯ストップがあるみたいですよ」

「んー」

立ち止まるあすかさんは、

「コンビニに入るまでもないんじゃないの」

と言いつつ……ぼくの手提げバッグをなぜか覗き込んでくる。

そして彼女は、

「利比古(としひこ)くんのバッグの中に、ソ◯ティライチあるんじゃん」

と言い、

「わたしにちょーだいよ、ソ◯ティライチ」

と突拍子も無く言ってくる。

「飲みかけなんですよ?」

焦りを抑えながら毅然と言うぼくに、

「じゃあ、なにで水分補給すればいいワケ?」

という難儀な問いがぶつかってくる。

もしや……生ビール中ジョッキが彼女に『まわり始めている』のでは。

そうであるのなら、ピンチなシチュエーションになってくるのだが。

 

× × ×

 

公園の上空ではカラスが鳴き喚いている。

下界のぼくとあすかさんはちょうど2人分のベンチに身を収めている。

ちょうど2人分だから、右隣のあすかさんの左腕や左肩がもうちょっとで触れてきてしまいそうだ……。

肩までの黒髪の緩やかなウエーブが眼につく。ぼくの姉と違って、癖毛(くせげ)を頭髪に微塵も発生させないあすかさん。今日も手入れが完璧で、緩やかにウエーブしたトコロからも艶(つや)めきが放たれているかのようだ。

……って、何をぼくは実況中継してるんだ。幾ら間近に彼女が居るとはいえ、黒髪を細かに描写するだなんてスケベ過ぎるじゃないか……!!

眼を右隣から離し、良くなかった視線を悔やみ始める。

悔やみ始めた約5秒後。

ふにゃあ、という感触が右肩から右腕にかけて発生してきた。

あすかさんがあすかさんのカラダをくっつけてきた……!!

「オトコノコにこんなに甘えるのって、ホント久しぶり」

形容しがたい彼女の声が、ぼくの鼓膜を震動させ、ぼくを追い込んでくる。

彼女が密着させてくるカラダの部位が肩や腕だけではなくなる……それを明瞭に感じ取るから、苦しさが際限無しに増してゆく。