ジャズが転換期を迎えていた1960年代後半。伝統に忠実なプレイヤーと変革を志向するプレイヤー。2人の男の対立を軸に進行していく85分間の映画だった。
アメリカ製作なんだけど、ハリウッド大作とは方向性がまるで違う。狭いシアター内で鑑賞したんだけど、シアターの狭さもなんだか作風にフィットしていたような気がした。
新宿の街はちょっとジメジメしている。小ぢんまりとした映画館に入った時はそれほどのジメジメ感ではなかったんだけど、お昼に近付いているからジメジメが増しちゃっているみたいだ。
歩きながら、左隣の利比古(としひこ)くんに、
「どうだった、映画は?」
「『どうだった』と訊かれるだけだと、答えにくいんですけど」
「なんで」
「もっと具体的な質問の方が答えやすいです。『このシーンはどう思った?』とか」
かわいくない。
ので、
「感想を10分以上喋ってくれないと、お昼ごはん食べさせてあげないよ」
と攻撃的に言ってみて、彼の顔を凝視していく。
見つめちゃうとドキドキが芽生えちゃうのは分かっている。
でも、眼は逸らさない。ドキドキも我慢する。昨日の夜から固めていた「決心」なんだから。
彼の狼狽(うろた)えた口元から何も出てこないから、
「利比古くんは街の湿気にさらされ続けたいワケ? 感想喋ってくれないと、ホントに、エアコンが効いた飲食店の中に入らせるの禁止にするよ!?」
「……禁止にしちゃったら、あすかさんも困るんでは。あすかさんだって、街の湿気にさらされ続けるのはイヤでしょう?」
わたしは視線を彼の眼に突き刺す。
透き通る宝石のような眼。ドキドキを避けられない。でも、視線は離さない。
「……わかりましたよ」
彼は、輝かしい眼を閉じつつ、
「飲食店に向かいながら映画の感想言って、言い切れなかった分は飲食店の中で言うコトにする。これでどうですか」
× × ×
「映像面のコトばっか喋ってたね」
「いけませんか?」
丸テーブルを挟んで向かい合っている利比古くんの反発の声はマジメの色が濃かった。
「映画は脚本や俳優だけじゃないって分かってはいるけど。――それにしたって、ここまで映像面にこだわるだなんて」
顎(あご)の下で両手を重ねて言うわたしは、
「誤魔化せてないゾ、覚えたての撮影用語とかを連呼したい!! ってキモチを」
と追い詰めていく。
それから、
『こういうトコロが、まだコドモっぽいよね』
と限りなく無音に近い声をこぼしてみる。
相当オトナっぽくなっているのは理解してあげている。だけど、わたしの方がまだまだオトナだ。
……産まれ年度が1つ上のオトナのオンナとして、弄(もてあそ)びたくなってきて、
「ねえ、利比古くん。この空間で、わたしに、もうちょっと『つきあって』よ」
「……はい?」
ビミョーな戸惑いを敢えて直視するわたしは、
「生ビールの中ジョッキが飲みたい」
とシッカリと告げる。
もちろん、注文するべき中ジョッキは、2人分だ。