水曜日の夜。わたしの部屋。
過去のレース映像を見返している。もちろん、土日の競馬予想のためである。まだ新米記者に過ぎないけど、レース映像を何度も見返していたら、新しい発見が産まれてきたりもする。
取り掛かり始めてから90分経ったところでレース映像の見返しを終える。椅子の背もたれに背中をくっつけて眼を閉じる。
「昨日の記憶」が産まれてくる。
× × ×
わたしのバースデーパーティーの「ほとぼり」がさめたあとで、利比古(としひこ)くんをわたしの部屋に入れた。ふたりだけの空間の方が、より一層きちんと向き合えると思ったから。
同じ目線になるべきだと思ったから、椅子に座って見下ろすのではなく、カーペットに腰を下ろして体育座りみたいな姿勢になった。
利比古くんもわたしと同じような姿勢を選んだ。コトバにするのが難しい微妙な距離感で、互いの視線が触れ合った。
「飲み足りないんじゃないですか?」
これが、利比古くんからの「先制パンチ」だった。
とっても唐突な問い。不意打ちを食らわされたような形になったわたしは、前かがみの度合いを強めながら、
「なんでそんなコト訊くの」
「だってあすかさん、さっきまでのパーティーで、ビール缶とかほとんど持ってなかったと思いますし」
鋭かった。わたしは、普通のサイズの缶ビールを2本飲んだだけだったのだ。
『こんなに鋭いから、わたしはこの男の子に惹きつけられたのかもしれない』
思いが過(よぎ)って、体温が上がって、だから、
「……わたしの、弾き語りの歌唱力、どうだった」
と話をずらす。
「良かったですよ」
「『良かったですよ』じゃ、感想になってない」
「それなら」
と言って利比古くんは、
「全体としては良かったんですけど、2箇所、気になりました」
「2箇所?」
「英単語を間違った発音で歌ってたのが、2箇所」
やっぱり鋭い。英語楽曲を歌ったんだけど、帰国子女の耳はやっぱり誤魔化せなかった。
「ダメ出ししてくれて、ありがとう」
素直になりたくて、素直に感謝した。
そしたら、
「意外です。あなたが、そんなに素直になるなんて」
× × ×
『意外です。あなたが、そんなに素直になるなんて』
そう言った時の彼の笑顔と、『あなた』という2人称が、翌日の夜になっても、わたしのカラダを発熱させ、わたしのココロを掻き乱してくる……。