夜。ダイニング・キッチン。
大きな冷蔵庫の扉を開ける。色とりどりのアルコール飲料たちと出会う。これからの夜を彩ってくれそうな、様々な飲み物たち……。
眼を凝らし、吟味する。
だけれど、
「お嬢さまぁ。土曜の夜だからって、冷蔵庫に向かってウットリし過ぎじゃないですかー?」
うるさいわね蜜柑(みかん)。
あなたに何が分かるの。お酒に耐性が無いクセに。アルコールにいとも簡単に打ち負かされるクセに。
わたしは、冷蔵庫の中のとある洋酒の瓶を右手で掴んで、
「ちょっと黙っていてくれるかしら?」
と厳しく言うんだけれど、背後から、
「あのですね。わたしにも、お嬢さまの行き過ぎた行動を咎める責務があるんでして」
……意味が分からないわ蜜柑。
責務!?
ちゃらんぽらんなあなたには、『責務』なんていかめしいコトバは似合わない……!!
× × ×
『家事が済んだのなら、2階フロアの自分の部屋に引っ込んでなさいよ!?』
そう言って、蜜柑を閉じ込めようとした。
蜜柑は、しぶしぶ首を縦に振った。
ダイニング・キッチンを先に出ていく時に、わたしが抱え込んでいる酒瓶たちに向かってドライな目線を送ってきたから、ムシャクシャしていけないコトをやってしまう寸前の精神状態になってしまった。
――ただ、蜜柑が消えてダイニング・キッチンに静寂が戻ってくると、キモチが穏やかになっていって、
『侑(ゆう)ちゃん、待っててね。あなたに最高の飲み物を届けてあげるから……』
というコトバが胸の奥でほとばしり、その結果、より一層チカラを籠めて、色とりどりの酒瓶を胸に抱き締めるのであった――。
× × ×
2階のわたしの部屋に入った。侑ちゃんを待たせてしまったのを詫びた15秒後に1本目の瓶を空にした。饗宴(きょうえん)が始まったのだった。侑ちゃんとわたしのふたりだけの饗宴、めくるめくふたりだけの世界、土曜の夜であるがゆえに、アルコールにひたひたに浸されて……!!
……で、1時間後。
わたしのベッドに座るジーンズスタイル・黒髪ストレートの女の子の顔がたいそう赤くなっている。
凛としたルックスに定評のある侑ちゃん。とりわけ、凛とした眼が、女子のハートすらもくすぐってくるほどに魅力的。
……なんだけれど、アルコールがカラダの中を駆け巡った結果、いつもは凛としているはずの眼も、『弱々しい』と形容できてしまうほどにソフトになってしまっていた。
かわいがり過ぎたのかしら、わたしが。
ずいぶん色んなお酒を勧めて、飲ませた。わたしほどの量を体内に流し込んだワケではないけれど、ベッド座りの親友女子はかなりの量のアルコールを自らの内に注ぎ込んでいた。
結果、アルコールに屈伏寸前の侑ちゃんが出来上がってしまった。
監督不行き届きか。それとも、アルコールハラスメントか。
責任を感じていないワケもない……んだけれど、
「アカ子ちゃぁぁぁあん……。わたし、わたしだけどね、シゴトづかれとか、シゴトのストレスとか、シゴトのジョーシにたいするイラダチとか、そんなのが、ミックスされててぇぇ……。でも、でもでもっ、でもでもでもっっ、なーんだか、あまくておいしいノミモノ、アカ子ちゃんがいーっぱいのませてくれたケッカ、ふわ~~んとしてきて、ぽわわわ~~~んとしてきて、シゴトのコトとか、どーーーーっでもよくなって、よくなって、それでそれで、このヨルは、ヨナカまで、あなたと、アカ子ちゃんと、いけちゃうトコロまでぇぇぇ……!!」
という、尋常ではない長台詞を聴くコトができているから――結局は、楽しさや愉しさが、上回る。