◯東京国立博物館のお外
上野恩賜公園に、愛(あい)&利比古(としひこ)姉弟と3人で来ている。
薫るような風。輝きを放つ新緑。薄暑も心地良い……はずなんであるが、
「愛。おれは、国立博物館を見て回ったがゆえの疲れを否定できないよ」
「え!? アツマくんあなた、体力オバケなはずでしょ!?」
「だってさぁ、見て回るトコロ、あんなにいっぱいあったし、展示品も数え切れないぐらいにあったし」
「言い訳だなんて。体力モンスターらしくもない」
やめてくだされ、『体力モンスター』なんて言ってくるのは。
おれのコトを『モンスター』だなんて、リスペクト、欠けてるよね。
「アツマさんの疲れを理解してあげようよ、お姉ちゃん。『体力オバケ』とか『体力モンスター』なんて言わない方が良いよ」
利比古の「たしなめ」が、おれの右サイドからやって来て、おれの左サイドの愛に直撃する。
「ほら見ろよ。おまえと違って、おまえの弟はいろいろ『わきまえてる』」
利比古の援護射撃の如くにそう言って、
「利比古だって、疲れてるはずなんだ。おれよりも疲労が大きいのかもしれない。それにもかかわらず、弱音など吐かず、姉のおまえに向けて真摯なコトバを送ってるじゃーないか」
おれからも利比古からも大げさなほど顔を背けやがる性格難あり女子は、
「……国際子ども図書館」
「それがどーした」
「だからっ、国際子ども図書館っ!! わかんないのアツマくん!? 次の目的地のコトよっ!!!」
× × ×
◯国際子ども図書館のお外
こどもの日なんである。
ゆえに、国際子ども図書館界隈はたくさんの子どもでごった返し、賑わいまくっている。
『ここにいる子どもたちは皆、すぐに喚き散らすおれのパートナー女子なんかよりも、100倍お行儀が良いんだよな……』
ココロの中にてそう呟きながら、子ども図書館入り口付近の賑わいをしみじみと眺める。
「ちょっとっ。棒立ちになってないで、エントランスに向かって動きましょーよっ」
おれの感慨は、おれのシャツを強く引っ張ってくるパートナー女子に、いとも簡単に妨害されてしまう。
しょうがねえなぁ足を踏み出してやるか……と思い始めた時であった。
おれと愛の眼の前を横切ろうとしていた5歳ぐらいの男の子が、ピタリと立ち止まり、おれたちをしげしげと眺めてきたのだ。
男の子に対して、おれはできるだけ柔らかく優しく微笑みかけてあげる。
男の子は、おれの左サイドに立つ愛の方へと視線を映していく。
「どうやら、あの男の子は、おまえの美しさに眼を凝らさずにはいられなかったみたいだな」
エントランス間近に立ちながら、黙っていたらもっと美人なのにもったいがないパートナーにそう言って、
「ませてたな」
と苦笑いしながら言い足す。
輝かしき容姿を誇る左サイドのパートナーは、おれのコトバに一切構いたくないようで、
「あなた、この子ども図書館がかつてどんな施設だったのか知ってる?」
おれが、
「知らん」
と素直に答えたら、
「流石は不勉強なわたしの彼氏ね」
と言いやがり、
「利比古だったら、知ってるんじゃないかな?」
と、おれの右サイドに立つ利比古に振っていく。
「知ってる。戦前の『帝国図書館』でしょ」
おれが愛なんかよりもよっぽど信頼を寄せている愛の弟がスマートに回答する。
「その通りよ。たぶん、Wikipediaで知ったのよね」
どんな風にWikipediaを利用していたらそんな知識にたどり着くのか不明瞭かつ不透明ではあるが、それはいいとして、
「よぉし! 眼の前の図書館の長い歴史について愛がべらべら喋りまくる前に、建物の中に突入するぞぉ~!!」
と、愛ちゃんを置いてけぼりにする勢いで、スニーカーを前方へと動かし始めるおれ、なのである。
おれが歩き出してすぐに、利比古が、スマートに爽やかに、おれに寄り添うようにして歩を進めていってくれる。
どうしようもない姉の方は放っておくに限る……!!