リビングソファでくつろいでいたら、妹のあすかが左サイドに腰掛けてきて、
「土曜日曜と競馬場に連勤で、くたびれちゃった」
『青春(せいしゅん)スポーツ』の中央競馬担当記者となったあすか。中央競馬担当であるがゆえに、土曜日曜は毎週のように競馬場に『出勤』している。あすかが住んでいる邸(いえ)と東京競馬場は近く、4月最終週に東京開催が始まってからは、府中の広大な競馬場へと徒歩によって出向いている。
『徒歩圏内? 妹さんのお邸(やしき)はいったいどの自治体に……?』みたいな声が聞こえてきそうだがスルーして、
「月曜と火曜は、ゆっくり休みたくなるよな。基本、月曜火曜が仕事休みってコトになるんだから」
「そーだよ、おにーちゃん」
幼さの残る声で応えながら、もうじき23歳の妹は、自らの右肩を兄の左肩に近付けてくる。
「おれに甘えたいんか?」
そういう声を寄せると、兄の左肩への接近が停まり、
「『23歳にもなって、甘えん坊になるってか』って、如何にも言いたそうだね」
と、ボショボショとした声が聞こえてくる。
「はい。言いたくなってました、あすかさん」
少しフザけるようにして応答したら、おれの妹は、いつの間にかソファにあった『青春スポーツ』の昨日の競馬面を、おれの顔面目がけて差し出してきた。
「エッなに、あすかおまえ、これを読めってゆーの」
引き続き少しフザけるようにして言うおれに、
「東京8Rのわたしの予想印を見てよ。◎(にじゅうまる)が圧勝して、馬単も3連単もカンペキに仕留めてるんだから」
言われた通りに眼を通してみるのだが、
「これ、3連単、どうなったら当たりになるの。おまえの3連単の買い目、掲載されてないと思うんだが」
「当たってるったら当たってるのっ!!!」
ビックリマーク3個分付くのが妥当な勢いで妹が叫ぶ。
獰猛(どうもう)。
× × ×
「昨日は、春の天皇賞があったけど――」
そう言いながらおれの右サイドにふわっ、と腰を下ろしてきたのは、おれのパートナーたる愛(あい)であった。
リビングソファに3人。おれの左サイドにはあすか、おれの右サイドには愛。
「――わたしもアツマくんも、春天(はるてん)の結果はとっくに知ってる。でも、例によって、このブログの制作の都合上、レース結果はボカさないといけないのよね」
「『春天』とか、略しやがって。そんなに、『競馬知ってるんですよアピール』がしたいんか、おまえ」
免れがたく右サイドのパートナーにツッコミを入れていったら、
「わたしを甘く見ないでアツマくんホントにもうっ!!!」
と凄い勢いで叫ばれ、免れがたく、殴られた。
× × ×
左サイドの妹からも、丸めた新聞紙で、背中を3分以上叩かれ続けてしまった。
3分以上、か。
春の天皇賞、だいたい3分10秒台でゴールするよな。
――さて、現在の状況なんだが、ひとしきり「折檻(せっかん)」を食らわせてきた愛とあすかは、両者、おれを叩くのに疲れたのか、すっかり静かになって、おれの左右に座り込み続けている。
「あすか」
おれは妹の名を呼び、
「そりゃ、消耗、するわなぁ。仕事始めたばかりの頃は、人一倍消耗するもんだ。スタミナに自信があったおれだって、そうだった」
と優しく言ってやって、それから、左サイドへと顔を向けてやる。
おれの方へと傾いてくる妹のカラダが視界を占めた。
やがて、妹の右肩が、おれのカラダに密着する。
兄のカラダにぜんぶ預けて委ねてくる妹から、やがて、寝息が生まれ始める。
程無くして、
「アツマくん、わたし、ねむい……」
と、右サイドから、本当に本当に眠そうな声が、おれの許(もと)に。