五條育美(ごじょう いくみ)。あたしの1つ年下で、長い付き合いの女子だ。
身長158センチで、全体的に控えめな体型。栗色の髪は羽田愛(はねだ あい)と似た色だけど、育美の方が色が濃い。高校時代までは常にツインテールだったけど、最近はツインテールにこだわるコトなく、変化に富んだ髪型を見せてきてくれている。
「波照間逸子(はてるま いつこ)が昨日この部屋に来たんですよね」
ポニーテールを白いシュシュでまとめた育美が、あたしの家のあたしの部屋に入ってあたしの間近に腰を下ろした途端に、尖(とが)った声音で言ってきた。
「平日なのに仕事をサボってヒカリさんに会いに行くだなんて。あの女子(ヒト)、ヒカリさんのコトが大好きで仕方がないんですね!」
波照間逸子——イーちゃんを詰(なじ)るかのように育美が言う。
あたしをイーちゃんに独占されたくないんだ。ヤキモチというか、ジェラシーというか。
「……負けたくない」
そう溢(こぼ)す育美が、
「大好きのレベルなら、私の方が上なんだから。波照間逸子の大好きレベルが4(フォー)なら、私の大好きレベルは6(シックス)」
なにかなー、その微妙な喩(たと)えは。
「巷(ちまた)のライトノベルに影響されてたりするんじゃないの、あんた?」
ベッドを椅子代わりにしているあたしは、間近の育美に軽く問いかける。『あんた』という2人称は、育美ぐらいにしか使わない。レアな2人称。
「ラノベは読みません」
キッパリと否定しつつ、育美はあたしのカラダ目がけて前のめりになっていく。
ムキになり過ぎちゃってる感じがしたから、育美に向けて両手を伸ばして、
「過度なヤキモチやジェラシーは、ココロとカラダに毒よ?」
と言いつつ、可愛い年下女子の可愛い両肩に両手を乗っけていく。
うつむき気味に口を引き結ぶ育美がいた。
× × ×
育美が平日の昼間に太刀川家(たちかわけ)を訪問できるのは、育美が大学4年生だからだ。一浪(いちろう)して、今の大学に入った。どんな大学なのかは、次の機会までボカしておく。
育美の就職活動の愚痴に耳を傾けてあげたあとで、あたしの始まったばかりの大学院生活について幾つか情報提供してあげた。
「——もうじき社会に出る娘(こ)に、大学院のコトについて延々喋り続けたって、しょーがないわよね」
そう言って、大学院生活トークを止(や)めにしてから、CD棚の方角にあたしはあたしの眼を向ける。
「音楽、聴く?」
CD棚に視線を当てたまま言うあたし。
「2001年以前の音源が聴きたいんじゃないですか? どーせ」
呆れ混じりの育美の声が鼓膜をくすぐる。
2002年5月3日産まれのあたしは、産まれる前の音楽を好んで聴く。そういう趣味が育美には未だ理解しがたいみたい。
あたしの懐メロ志向が腑に落ちない御様子の育美に構わず、
「そーよ。今いちばん聴いてみたいのは、1996年リリースのアルバム」
と告げ、それから、
「クーラ・シェイカーってロックバンドの、『K』ってアルバム」
「イギリスのバンドですよね、アメリカじゃないですよね」
「どうしてわかったの、冴えてるじゃないの」
「私、誰にも負けないぐらい、ヒカリさんのコト、わかってるし」
CD棚から育美へと視線を戻したら、育美がCD棚の逆サイドへと眼を逸らしていた。
今日の育美は、人一倍ツンデレなのかしら……と思っていたら、
「クーラ・シェイカー、ですっけ? アルバム流してもいいですけど、『条件』があります」
「なあに」
優しく訊いたら、育美は、眼を逸らしたままに、
「ヒカリさんのベッドに、座らせてください」
「どーして」
自分の妹の面倒を見ているような気分になりながら、訊くあたし。
「音楽聴くならいちばん近くで聴きたいんですっ。向かい合ったままじゃ満足できないんですっ」
突っぱねるように答える育美。
最高に可愛らしい妹分だと思えてきたから、寄り添いたい理由なんてどうでもよくなってくる。
「承知いたしました、五條育美さん」
わざとおかしな口調になって、要求を受け入れる。
そして、ベッドからいったん立ち上がり、CD棚へと歩み寄って、クーラ・シェイカーを抜き取り、CD棚の上に鎮座するステレオコンポの電源を入れる。
ベッドの方角に振り向いたら、育美が既にベッド上に腰掛けていた。
あたしの妹分に相応しい腰掛け方だったから、嬉しかった。