【愛の◯◯】ついにツインテールがほどかれるから◯◯

 

「純和風のお屋敷って感じ。ビックリ」

畳に腰を下ろすわたしは、長椅子に腰掛ける菊乃(きくの)に言う。

いかにも格式高そうな和風建築の家。こんな家に住んでいる同年代女子が身近にいただなんて。

「羨ましいよ、この畳部屋でいつも寝起きしてるのが」

羨ましさをわたしは隠さない。

「そんなに、ですか?」

わたしの羨ましさを受け止めた菊乃は苦笑いだ。

「うん」

頷きながら受け答えたあとで、畳部屋の入り口方面にチラリと振り向き、

「ピンク色のスリッパ履いてるんだね。菊乃にしてはカワイイ趣味だ」

再び戻した視線の先の菊乃はやっぱり照れていた。

カワイイ趣味に言及したら、後輩がカワイイ顔になった。

嬉しい。

 

× × ×

 

「お風呂とっても良かった。ありがとう」

髪を乾かし切ったわたしは菊乃に感謝する。

ドライヤーのコンセントを電源タップから抜き取り、姿勢を少し正し、菊乃の顔に視線を当てていく。

ツインテールの凛々しい顔立ち。ツインテールも真似できないし、凛々しい顔立ちも真似できない。身長や脚の長さならわたしが勝ってるんだけど、こういうトコロで負けちゃうんだよねー。

負けは、認める。

だけど、

『切り崩したい』

というキモチもある。

ツインテールの凛々しい顔立ちを『攻略』したい……って、おかしな表現かな。

『攻略』の漢字2文字がどれだけ適切なのかは分からないけど、とりあえず、菊乃目がけて視線を注ぎ込み続けるのを頑張ってみる。

コトバは、発してあげない。

無言になるコトで、徐々に戸惑わせていく。

わたしの『攻略法』が威力を発揮したみたいで、凛々しい顔立ちに弱さが混じり込んでいく。

後輩女子の視線が下降を開始する。

目元をよく見てみる。隠せないキモチの揺らぎが目元に表れている。

「『突っ込んだ』ハナシに、なっちゃうんだけど」

口を開く。言うべきコトが言えるチャンス。逃したくない。

「入試サボった日は、やっぱり怒られた?」

不真面目な声音にならないよう心掛けて、そう問い掛けた。

ツインテール後輩女子の視線がより一層下がっていく。ションボリなキモチが口元の辺りから濃厚に伝わってくる。縮こまり始めるカラダは放っておいたら萎(しお)れちゃいそう。

ツインテールすらも弱々しく見える後輩女子は、間(ま)を作るコトで今のキモチを表現してから、斜め下に顔を傾け、

「怒られました」

と答えてくる。

「滑り止めだったから、そんなに悪影響も及ぼさなかったんですけど」

ショボショボと言い足す菊乃に、

「菊乃が入試サボった大学、わたしも、『滑り止めにしよっかな』って思ったりもした。願書は結局出さなかったけど」

と打ち明ける。

菊乃の顔の角度がやや上がって、

「モネ先輩が滑り止めにするような偏差値じゃなかったと思うんですけど。先輩が滑り止めにするのなら、もっと高レベルの――」

「ストップ」

敢えて遮る。落ち着かせたいから。

できるだけ優しい表情になるよう頑張って、菊乃を見つめる。浪人の身のわたしは、受験に関しても菊乃の『お姉さん』。『お姉さん』としての義務を果たしたくて、優しさを送り届けるためにチカラを尽くす。

『深掘りはしないよ。安心して』

ココロを籠めた無言のメッセージは、どのくらい上手く伝わっているだろうか。

 

× × ×

 

「そろそろ、ツインテールほどいたら?」

真面目なハナシもひと段落したので、菊乃に言ってみる。

「それもそうですね」

苦笑しながら応える菊乃が、座椅子から動かないまま、髪を結んでいるヘアゴムに指を伸ばしていく。

右サイドのツインテールから取り掛かる菊乃。いつも右サイドからほどいていくんだろうか。ツインテールになったコトが無いから、感覚、イマイチ分かんないや。

右サイド→左サイドという順でヘアゴムが髪から抜け、菊乃がついにツインテールで無くなる。

ついに下ろされた菊乃の黒髪。

鮮烈過ぎて、

「想像以上の艶(なま)めかしさだな」

と、素直過ぎるキモチを声に出してしまう。

菊乃の右手から青いヘアゴムがポトリ、とこぼれ落ちた。

「なまめかしさ……?」

畳に落下した青いヘアゴムを拾おうとせずに、先輩女子たるわたしを凝視してきつつ、動揺の声を発する。

菊乃の動揺が筆舌に尽くしがたいから、

「女子高校生ってレベルじゃないってコトだよ」

と、笑いながら告げてしまう。

菊乃は、何か言い返しかけるけど、声に出すコトができない。

不甲斐無さを自覚している故(ゆえ)か、視線がまたもや下降。

菊乃が俯くから、ちょっとしたペナルティで、

ツインテールじゃない菊乃は――普段の10倍、愛せる」

というコトバを飛ばしてみる。

顔の角度がすごい速さで上がる。顔全体の赤みが凄まじくなってきている。

「じゅっ10倍!?」

焦っているというレベルじゃない菊乃が、

「『10倍』ってなんですかっ、『愛せる』ってなんですかっ」

と懸命に抵抗してきてくれる。

「――お風呂に入って考えてみてごらんよ」

最高に先輩女子っぽい応答をわたしは成し遂げる。

まだ入浴していない後輩女子の顔面が燃え盛る……!