実家のカフェ『しゅとらうす』をさっきまで手伝っていた。
ラッキーでハッピーなコトに、今日は丸田吉蔵(まるた よしぞう)くんが来店しなかった。肉体的・精神的負担が7割ぐらい軽減されていた気がする。
だけど、丸田くんは昨日まで4日連続で来店していたので、4日連続のわたしの苦労を思い出すとやっぱりツラくなる。
特に、一昨日と昨日はヒドかった。一昨日の2月4日は立春(りっしゅん)だった。暦の上では春になったのが本当に嬉しかったのか、俳句ボーイたる丸田吉蔵くんは初春(しょしゅん)の季語を口から連発していた。
昨日とか、何度注意したコトか。『季語を言うのなら、もう少し適切な声の大きさで言ってよ』という風に5回以上は注意したと思う。丸田くんはそのたびに『ごめん!!』と応答したんだけど、その『ごめん!!』すらも大声だったから、手の施しようが無いんではないかという暗い気持ちが胸の奥で広がりまくってしまっていた。
× × ×
ツラいのは『丸田くん案件』だけじゃない。
『利比古(としひこ)くん案件』もある。
羽田利比古くん。わたしの尊敬する羽田愛(はねだ あい)先輩の弟にして、わたしのボーイフレンド……。
ハッキリとした交際開始日があるワケじゃないけど、結構長い間彼とはつきあっている、と思う。
長いつきあいだからといって、上手く行くコトばかりじゃない。
とりわけ、去年の年の瀬辺りから、上手く行かないコトが途切れずに続いてしまっている。
クリスマスイブも噛み合わなかった。お正月も噛み合わなかった。クリスマスイブの夜のデートもお正月の初詣デートも失敗に終わった。
失敗は止まらない。失敗は積み重なる。
1月31日と2月1日、2日連続でデートして、2日連続でしくじった。
× × ×
勉強机の中央に置いたスマートフォンを持ち上げる。
『デート 失敗の連続 埋め合わせ』
文字を打ち込み、検索を開始する。
しかし、◯ーグルが思ったより賢く無い。状況を変えてくれるのに役立つような情報が得られない。
AIも芳(かんば)しく無い。『AI機能、搭載してもしなくても同じじゃん……』みたいにグチったらトゲが刺さっちゃいそうだから、声高にグチったりはしないけど。
『デート 失敗の連続 埋め合わせ』では抽象的過ぎるんだろうかと思い、検索ワードを変えてみるコトにする。
『デート 動物園 彼氏 うわの空』
1月31日のデートを思い起こしてそう入力してみた。
しかしながら、検索結果に実(みの)りも無く、AIの回答もまたもや不甲斐無かった。
出口の無い迷路に入り込むような感覚を覚えつつも、諦めたくないわたしは『正しい男女交際に導いてくれる答え』をスマートフォンから得るのに執着し続ける。
『デート 博物館 彼氏 逸れていく会話 矯正の仕方』
2月1日の失敗デートを反映した検索ワードの入力だった。
都内某博物館に行った。わたしは展示物について利比古くんと生産性がある話がしたかったのに、利比古くんの発言が展示物からどんどん逸れていくから生産性はどこかに消えていってしまった。会話をあらぬ方向に持っていく利比古くんの悪癖を矯正する方法は無いものか?
今度こそ有効な提案をしてくれるはず……と願いと祈りを籠めて検索ボタンをタップした。
だけど……。
× × ×
窓の外が暗くなり始めてもわたしは検索エンジンと格闘を続けている。
失敗デートの反省はもうやらないコトにした。次回のデートで円滑かつ濃厚なコミュニケーションを成り立たせる方法を模索するために文字を打ち込み続ける。
『八景島シーパラダイス デート 行きの交通機関での振る舞い』
『八景島シーパラダイス デート 男子が好きそうな生き物』
『八景島シーパラダイス デート 彼氏が思わず振り向く言葉』
『八景島シーパラダイス デート テンションが上がるアトラクション』
『八景島シーパラダイス デート 近場でディナー』
デート場所が八景島シーパラダイスになるのは先程確定した。利比古くんの合意を得ていないから強引だけど、当日の立ち回り方にわたしの興味は既に注(そそ)がれまくっている。
だから、上記のようなワードによる検索を繰り返す。
だけど、検索エンジンは最適解をなかなか与えてくれない。
それでも、『八景島シーパラダイス デート』に続くワードをひねり出す努力を、わたしは決して放棄したくなくって、放棄したくなくって……!!