【愛の◯◯】弱気のままでは帰せない

 

お邸(やしき)の昼下がりのわたしの部屋。

わたしのベッドに座っている大井町侑(おおいまち ゆう)を見ている。特に脚の部分を見ている。

キレイで長い脚。例によってジーンズ穿き。

侑ご自慢の脚……なんだけども、違和感をわたしは否定できなくって。

なんだか、元気さに欠ける。両脚からエネルギーが感じられない。

女子の脚のコンディションを見極めるのは得意なのだ。同じ女子なんだものね。女子の直感によって、今の侑の脚がコンディションいまいちなのが伝わってくる。文字数その他の事情によって、具体的にどんな風にコンディションいまいちなのかの説明は省くけど。

ただ、1点だけ指摘するならば……穿いているジーンズが、常よりも少し細く見える。

「……あなたずっと、わたしのジーンズ見てるわね」

わたしの向ける眼に気付いた侑が、

「どうして?」

と訊いてくる。

わたしは、答えるよりも先に、カーペットから立ち上がった。

どちらかと言うと早足でベッドに迫る。侑を見下ろし、戸惑い始める侑を味わう。

「――やっぱりだ」

そう呟いてから、戸惑いの親友女子の右隣に腰を下ろす。

「脚のあとで顔を見たら、確信になったわ」

とわたし。

「なっなにが言いたいの、愛(あい)ってば」

と侑。

驚く声に強さが感じられないから、苦笑いするのをガマンできなくなっちゃう。

だけど、告げるべきコトは告げなきゃだから、左肩を親友女子の右肩に寄せていって、

「あなた、くたびれてるんでしょ」

と優しく指摘してあげる。

「忙しい勤務が続いた反動なのね」

と、付け加え。

わたしのコトバがズボッと食い込んで、侑の表情に焦りの色が濃くなる。

焦るけど、何も言えなくなる。

『そんなコト無いからっ!』って突っぱねるコトも、『どうしてそんなにカンが良(い)いの!?』って驚きの声をあげるコトも、無理になっちゃった。

 

× × ×

 

約10分間近く絶句していた侑に、

「ガマンしなくてもいいのよ」

と言ってあげる。

「あなたの忍耐力の強さは分かってるけど――今は、忍耐力も、萎(しぼ)みかかってるんだろうと思う」

「……どういうイミ」

言い返す侑の声は小さい。

「分かりにくかった?」

わたしは明るい声を出して、

「お昼寝スペースを喜んで提供してあげるってコトよ」

侑の両眼が大きくなり、

「おひるね……スペース……って、つまり」

「――そう。わたしとあなたが今座ってる、このベッド」

 

× × ×

 

慌てた手付きで、枕元の目覚まし時計を鷲掴み。時刻を知って、眼を見開く。

それから、カーペットで読書していたわたしに眼を転じて、

「ごめんなさい、わたし、わたし、お寝坊しちゃった……!!」

と、本当に申し訳無さそうに言ってくる。

『お寝坊しちゃった……!!』だなんて。

仕事休みの土曜日に『お寝坊』なんて概念あるワケ無い。混乱してるんだ。侑らしからぬカワイイ混乱ぶりね……。

「あなたがそんなに萌えキャラぶりを発揮するなんてねえ」

「もっ、萌えキャラぶり!?」

『慌てないのよ……』とココロで呟きつつ、

「目覚めたら夕方5時過ぎてたんだから、そんな風になっちゃうのも仕方無い面はあると思うけど」

と言い、

「ヘアブラシ貸すから、3箇所ぐらい発生してる寝グセを直したら?」

と言ってあげる。

急速に赤面していく侑。

わたしの強烈な『コトバの打球』を捕球できない。

 

× × ×

 

侑が、寝グセがあった部分を不必要なぐらいヘアブラシでゴシゴシしている。

「そこはもう元通りになってるから。そんなにゴシゴシし過ぎなくなっていいから」

侑のお母さんみたいになった気分で言ってあげて、

「せっかくの黒髪が傷んじゃうのは、良くないし」

と、コトバを付け足す。

侑は、手を止めて、うつむいて、ヘアブラシをジッと見る。

ベッド座りの侑のカーペットにくっついている脚をチェックしてみるわたし。まだ少し弱々しいのは否定できない。

「わたしはね、あなたに、あなた自身のいろんなトコロを大事にしてほしいのよ」

お母さんモードのわたしは諭(さと)すように言う。

「ステキな黒髪ストレートだって――大事にしてほしいし」

わたしのコトバによって、侑のヘアブラシを握るチカラが増す。

親友女子の握力の増加が非常に愉快なわたしは、

「見せたいでしょ? ステキな黒髪ストレートを」

と言い、

「いるでしょ……。『見せたいオトコノコ』が、ひとり」

と、決定的なヒトコトを言い放つ。

侑の右手からヘアブラシが離れ、ベッド上にぽとり、と落ちる。

それから侑は、ジーンズの両膝部分をギュギュギュ……と握り始める。

赤面の度合いは、高め。

だけど、お目覚め直後と違って、なんというか、赤面に『勢い』が感じられる。

今だったら、からかうわたしに反発できそう。

回復して反発してくるのなら、素直に歓迎だ。

侑が弱ったままじゃ、楽しくなれない。

それに、弱気のままでは、侑をお邸(やしき)から帰せない。

わたしに向かって思いっ切り反抗してくる侑が是非とも見たい。

張り合いの無い侑も好きだけど、張り合いのある侑は、もっと好き。