【愛の◯◯】姉にパンチされたくない窮地のぼく

 

姉とアツマさんの暮らすマンションに来ている。『彼が居ない日中は退屈で淋しいから、あんたに来てほしいの』と姉にお願いされたから来た。

ダイニングテーブルを挟んで向かい合う羽田姉弟(はねだきょうだい)。

2回目のお代わりコーヒーを飲み干した姉が、

「さーて、利比古(としひこ)、あんたから話(ハナシ)を聴かせてもらうとしますか」

と言ってくる。

お邸(やしき)でのあすかさんの様子や、年が明けてからの川又(かわまた)さんとの『ふれあい』について、姉は知りたがっているのである。

 

× × ×

 

あすかさんの様子の報告は無難にこなすコトができた。

『最近、Wikipediaに対するぼくのこだわりを咎めるのが少なくなっていて、ちょっと物足りないというかなんというか……なんだ』と言ったら、真向かいの姉が若干邪悪なスマイルを見せてきたのが気になりはしたけど。

 

問題は、『川又さんとの『ふれあい』』についての報告だった。

どうしようも無く茶番劇めいていた去年のクリスマスほどではないが、先週2人だけで初詣に行った時も『噛み合っていない』感じがあった。

イマイチ折り合えていないのを姉に覚(さと)られたら、辛くなるし苦しくなる。

ぼくとしては上手く躱(かわ)してみたいのだが……。

 

4回目のお代わりコーヒーを飲み干した姉がコーヒーカップを置く。

珍しく音を立ててコーヒーカップを置いたのに不穏さを感じ取っていたら、姉が前のめり姿勢になって、

「川又さんと初詣デートしたんでしょ!? 彼女は神社でいったいどんなお願いをしてたの!?」

と凄い勢いで訊いてきた。

「興奮(コーフン)……し過ぎじゃない?」

ドライアイスのようなモノで背すじを冷やされているような感覚が到来する。

「興奮(コーフン)し過ぎない方がおかしいでしょ~」

真面目の反対な声でぼくを翻弄してくる姉。

「川又さんの願い事を開示してくれるまで、邸(いえ)には帰さないわよ!?」

ピンチだ。

なぜか。

ぼくが『願い事の中身、教えてくれませんか?』と川又さんに訊いたら、彼女はスネたような表情で参道を突き進むだけで、教えてくれなかったのだ。

誤魔化すしかない。教えてくれなかったのだから。

ぼくはぼくのコーヒーカップを手に取り、冷めかかったコーヒーカップを口に含む。砂糖・ミルク入りのコーヒーがいささか甘ったるく感じられる。

コーヒーを美味しく味わうのに失敗したあとで、

「確か……『無病息災』、だったかな」

と濁しのコトバを発するぼく。

しかし、前のめり姿勢過剰な姉から、

「ほのかちゃんがそんな無難な願い事するなんて思えないわ!!」

と、ぼくを絶体絶命に近付けてくるコトバが……。

川又ほのかさんを『川又さん』ではなく『ほのかちゃん』と呼ぶようになった姉は、キケンだ。どんな風に暴れ出すか分からない。

「あんた、嘘ついてるんじゃないの? 嘘つきな弟に対しては、わたし、厳しいのよ?」

微笑(わら)っている姉。しかしながら腕組みし始めている姉。

姉の繰り出すパンチは痛い。長らく経験していないが、とにかく痛いのだ。

スッキリとした体型とは裏腹の腕っぷしの強さ。

『お姉ちゃん、剛腕過ぎるよ……』とかウッカリ口走ってしまったら、パンチを付け足されてしまう……!!