【愛の◯◯】卒論を提出したので、胸に飛びつく

 

卒業論文を提出した。焦るコト無く余裕をもって提出できた。教員採用試験に落ちた直後は書き進めていく自信が少し弱まっていたけど、時が経つごとに自信を取り戻していって、平穏無事に書き上げるコトができた。

わたしが大学院進学を希望しているとしたら許容されない卒業論文だと思う。テーマが広過ぎるし、文字数も許容範囲を大きく逸脱している。ところどころ学術論文に相応しくない書き方になっているのも自覚している。だけど、院進するつもりなんて最初から1ミリメートルも無かったから、かなり自由に書かせてもらった。わたしが「はっちゃけ過ぎている」かどうかは、指導教官の大橋(おおはし)先生が見極めるコト。口頭試問(こうとうしもん)で『君の論文は到底学術的とは~』みたいに言われるかもしれないけど、ココロの準備は既にできている。

 

× × ×

 

「アカデミズムの範疇(はんちゅう)からはみ出てるのかもしれないけど、書いたモノ自体は評価してくださると思うのよね」

寄せ鍋のお肉をしっかりと味わってから、わたしはアツマくんに言う。

菜箸(さいばし)をお鍋に伸ばしながらアツマくんが、

「すごい自信だな。大橋先生が少しもコワくないんだな」

と的外れのコメントをしてくる。

あのねー。

「コワい・コワくないの話じゃ無いのよっ。わたしは大橋先生を信頼してるの。大橋先生なら、ゼッタイ期待に応えてくれるの。卒論演習を何度も重ねたんだし、実感よ、実感っ」

「だけどさー」

と言ったかと思うと、白菜や椎茸をモグモグした後で、わたしの彼氏は、

「規定の2倍以上の文字数だったんだろ? 読み手への配慮に欠けてるよな」

……わたしは一気に左手を握り締めて、

「わたしの卒論がワガママだったってゆーのっ」

と言いつつ、彼氏を睨みつける。

彼氏が黙って豆腐を食べていくから、ムカムカして、

「卒論には、あなたの名前も出したわ」

「はぁ!? ワガママの極みじゃねーか」

ここで、わざとイジワルに、

「嘘を嘘と見抜ける能力が、あなたにどの程度備わってるのか……」

「いや、いみわからん」

すぐさま、ジト目の視線を彼氏に注ぎ込み始める。

わたしは何も言い返さない。わたしは反発も反抗もしない。

イタズラな愛情も籠めた視線を注ぎ込むコトで、彼氏を困らせる。

 

× × ×

 

ふたり暮らしマンション部屋のリビングのソファにカラダを託して休憩する。

何もせずポヤ~ン、となって、卒論を提出し終えたカラダを癒やしているのだ。

だけども、約20分間ポヤ~ン、とし続けていたら、だんだん退屈になってきちゃった。

キッチンの方角に眼を向ける。アツマくんがお鍋を洗い終えたトコロだった。

わたしが押し付けた食器片付けのお仕事も「ひと段落」といったトコロだったので、グッドタイミングだと思って、

「ねーねーっ。わたしの近くに来てよーっ」

と呼び掛けの声を出してみる。

 

アツマくんは何も言わずにわたしの右隣に座ってくれた。

「はい、よくできました☆」

わたしの上から目線な声によってアツマくんは舌打ちしてしまうけど、

「さっきの卒論に対するツッコミは、帳消しにしてあげるわ☆」

と寛容ぶりをアピールして、彼の左肩に向けてカラダを傾けていく。

ぐみゅっ、とカラダを引っつけた途端に、

「『頑張った』って、思ってるから」

という彼のコトバが耳に入ってくる。

「おまえの努力、認めてるから」

そう言って、わたしの右手を左手で包み込んでくれる。

嬉しい。

 

× × ×

 

「卒論を出したコトで、オトナの階段をまた1つ上(のぼ)れたわ」

「そーゆー自覚があるのなら、コドモじみたスキンシップはいい加減卒業したらどーなんだ」

「かわいくないわね」

そう言った1秒後に彼の膝を枕にするから、

「かわいくないのは、おまえのほーだっ」

と、彼は捨て台詞をこらえ切れない。

「『かわいくない』のが半分、『かわいい』のが半分なんじゃないの?」

甘え含(ぶく)みの声音で言ったら、

「……」

と、うろたえながら沈黙した。

だから、

「わたしの魅力を3つ言ってくれるまで、動かないわよ」

と無茶を振る。

 

やっと3つ目の魅力を言ってくれた彼の膝から約束通り離れる。

カラダは、彼方面(かれほうめん)に向け続けている。

「アツマくん、もっとわたしを見てきてよ」

5・7・5の如きリズムで言い、

「恥ずかしがらず、もっと見てきて?」

7・7の如きリズムで言い足す。

彼のカラダがジワリ……と動き出す。

その動きが緩慢なのがガマンできず、

「優柔不断っ」

と叫んでから、彼の胸に飛びついていく。

「まったくあなたってば、『向上心』が足りないんだから」

オデコを胸板に強く押し付けて言ったら、

「……なんぞ、『向上心』って」

と不甲斐無きコトバが降りてきたから、

「より良いカレシになってほしいのよ」

と遊ぶように言ってから、

「もっと愛してほしいの」

と、とろけるような声で言い放つ。

やがて、アツマくんは、

「場所移動……してみないか」

と、萎縮した声で、申し出。

ふがいないわね~~。