【愛の◯◯】旧・幹事長は収拾をつけない

 

外は澄み切った冬晴れ。

アツマくんを仕事場に送り出した後で、窓際に小テーブルを置き、その上にノートパソコンを置いた。

あすかちゃんとのビデオ通話の開始をウキウキしながら待った。

 

……だけど、わたしの弾むようなキモチは、

『昨日は、兄貴とふたりきりで、密度の濃い日曜日でしたよねえ?』

と画面の向こうのあすかちゃんに満面の笑みで言われたコトで挫(くじ)かれてしまう。

ノートパソコンめがけて不必要に前のめりになってしまうわたしは、

「どーゆーイミ『密度濃い』って」

と早口で訊き返してしまう。

『濃厚に触れ合ってたんでしょ?』

あすかちゃんの「反撃」。どうしてそんなにお行儀が悪いの。

小テーブルに置いた両手を握り締め始め、不必要に腰を浮かせながら、

「月曜の午前中から飛ばし過ぎだと思うんだけどっ」

とクレームをつけるんだけど、

『如何にも『図星』なおねーさんだぁ☆』

とさらにお行儀悪く言われてしまって、わたしはどんどんタジタジに……。

 

× × ×

 

『ふたり暮らし』マンションにおける『密度の濃さ』にあすかちゃんはとっても興味を寄せているみたいだ。

わたしとアツマくんを夫婦に見立てて要らぬ妄想を繰り広げたりしているとしか思えない……!

 

超久々にあすかちゃんを呪いたくなってきた、んだけど、気を取り直して大学に向かっていくコトにした。

 

学生会館5階のサークル室がわたしを待ち構えていた。『漫研ときどきソフトボールの会』。少し奇妙な名前のサークルのお部屋には漫画本がこれでもかと敷き詰められている。

幹事長を勇退したわたしは、いつもの通り、幹事長の『指定席』みたくなっているお席に腰を据えた。サークル室の奥側の席で、右サイドと左サイドのサークル構成員に「眼を光らせる」コトができる。『幹事長を勇退したんだったら、幹事長みたいに振る舞うのは自重した方がいいんでは!?』というツッコミは残念ながら受け付けません!

 

さて、講談社の某・雑誌の某・青年漫画の単行本を読み終えたわたしは、右サイドの古性(こしょう)シュウジくんに眼を寄せ始めているトコロだ。

シュウジくんはわたしの2個下の3年生ボーイで、このサークルの副幹事長に就任したばかりである。

シュウジくんが読んでいる新潮クレスト・ブックスが気になる。シュウジくんの読書のプライバシーなどお構い無しに前のめり姿勢でもって背表紙を眼に入れようとする。分厚い新潮クレスト・ブックスの背表紙にはわたしが既に読んだコトのある小説の題名が書かれていた。

「――やるわねえ」

こういうコトバをこぼさないワケにはいかなかった。

シュウジくん、日本文学に傾斜してるイメージだったけど、新潮クレスト・ブックスも守備範囲になったのね」

上から目線は拭えないけど、シュウジくんの読書について積極的な姿勢を示したかったから、こういう指摘のコトバをぶつけていく。

わたしの発言を受けて、シュウジくんは新潮クレスト・ブックスにしおりを挟んで、ゆっくりとわたし方面に顔を向けていく。

「新潮クレスト・ブックスなら大学入学直後から眼を通してましたよ」

ふーーん。

『喰らいつきたい』ってキモチがありそうね、あなた。

そうであるのならば、

「わたしは、15歳の誕生日を迎えた時には、新潮クレスト・ブックスをもう既に50冊以上は読破してたわよ」

と『事実』を慈悲無く伝えていくのを躊躇(ためら)わないコトにする。

シュウジくんの顔から、彼の背中が冷え始めていっているのを感じ取る。

 

文学にまつわる早熟ぶりをもっと自慢していきたかったんだけど、度が過ぎるほど自慢してシュウジくんの向学心を打ち砕くのは良くないから、『文学少女だったんですよアピール』はキリのいいトコロで終わらせてあげた。

サークル室に居るのはわたしとシュウジくんだけじゃない。わたしから見て左サイドに新・幹事長たる新山(しんざん)ブンゴくんが着席している。

シュウジくんが読書に復帰するのを見届けてから、ブンゴくんの方角に顔の向きを転じて、

「ブンゴくん」

とフレッシュ幹事長に呼び掛けて、

ストーブリーグね。プロ野球界も、このサークルも」

いきなり言われたからブンゴくんは眼を見張るけど、やがてはわたしの発言の意味合いを理解してくれて、

「まさか、『このサークルでも『契約更改』しましょーよ』とか言わないですよね?」

と言ってくれる。

わたしは若干お行儀悪く左手をヒラヒラさせながら、

「言わない言わない、出入り自由のサークルなんだし、『うどん屋さんでバイトして、鍛え直してきたら?』みたいな通告なんてやらないわよ」

免れがたく顔を苦くするブンゴくんが、

「『うどん屋さんで~』だとか、回りくどくて鮮度の落ちたネタをねじ込まなくても……」

わたしは余裕で、

「そーね。読売巨人軍に詳しくないと、『うどん屋さんで~』の背景は分かりにくいでしょーね」

と言い、その後で、

「それはそうとして、ブンゴくんは自分の『年俸』がどのくらいだったら納得できる??」

突拍子もないコトを訊かれた男の子特有の狼狽(うろた)え顔を見せてきてくれた新・幹事長ボーイは、

「急に『年俸』みたいな概念でっち上げないでくださいよ。絶対に今思いついたんでしょ」

「食い下がるわねえ」

「……」

「あなたのそういう無言、カワイイわ♪」

「……羽田(はねだ)センパイの美貌には負けます」