【愛の◯◯】101%以上にしたくて◯◯を要求

 

葉山(はやま)むつみさんは戸部(とべ)アツマさんを評価しているみたいだ。『優しい』『頼りになる』って。わたしは葉山さんみたくアツマさんを評価できない。『優しい』と思ったコトも無ければ『頼りになる』と思ったコトも無い。認識の相違。モヤモヤする。

昨日、戸山公園において葉山さんがアツマさんを評価するコトバを発した瞬間から、モヤモヤがずっと持続している。どうしてアツマさんを評価するヒトが多数派なんだろう? どうしてアツマさんを評価しないヒトが少数派なんだろう? わたしはわたしが少数派である現実を上手く受け入れられない。もっと「味方」が欲しい。「味方」になってくれそうな存在なんて周囲には見当たらないんだけど……。

 

「……利比古(としひこ)くんも、『アツマさん支持』なんだよね」

ベッドに腰掛けて夢中になってテレビ情報誌を読んでいる利比古くんに、そんなコトバをぶつけてみる。

利比古くんの視線が上がり、

「唐突ですねえ」

という言(げん)の後で、

「アツマさん批判でも始めたいんですか?」

と訊きつつ、キラキラした苦笑いを見せてくる。

「利比古くんは、どうしてアツマさんをリスペクトできるの?」

利比古くんのお部屋でカーペットに腰をひっつけているわたしは、真向かいの利比古くんに厳しい視線を送りつつ問う。

「リスペクトできる要素しか無いと思うんですが」

聞き心地の悪いコトバが返ってきてしまう。

依然としてキラキラしている苦笑い顔にちょっとムカついてしまう。

「出会った時からリスペクトしてましたからね、ぼくは」

なにそれ不可解なんですけど。

最高に輝かしい苦笑い顔でそんな不可解なコト言わないでよ。

「わたしは、出会った時からアンチだったよっ!」

トゲトゲしく言っちゃうのを我慢できないわたし。

「第一印象で、アンチ確定だった。ヒトとヒトとの間(あいだ)には『相性』ってモノがあるでしょ? 合わない相性を合うようにさせるのは不可能だってコトっ」

利比古くんにもアツマさんにもムカついて、こんなコトバを吐き出してしまう。

「川又(かわまた)さん、カルシウムカルシウム」

なんなの。

わたしをたしなめたいってワケ、利比古くん!?

しかもしかも、

「利比古くんって、わたしのコト徹頭徹尾『川又さん』呼びだよね!! 長いつきあいなのに、徹頭徹尾苗字でしか呼んでくれないよね!! アツマさんに対する不満ほどじゃないけど、不満だよっ。『ほのかさん』って呼んでくれてもいいんじゃん、それなのに、あなたは、頑(かたく)なに……!!」

ぶちまけた。

ぶちまけたけど、ぶちまけられた利比古くんは落ち着いた表情。

不都合にも穏やかな彼は、

「『あなた』って2人称、現代の女子はなかなか使わないと思うんですけど、川又さんの個性が出てて、GOODだとぼくは思ってますよ」

と、浅ましくも、「論点」をずらしてくる……。

 

× × ×

 

呆れちゃうよ。

アツマさんへのヘイトが薄れる代わりに、利比古くんへの不満が噴き出しそうになっちゃってる。

『ほのかさん』って呼んでくれたら、許してあげられるのに。

街でデートしてても『川又さん』呼び。部屋で2人きりの時間を過ごしてても『川又さん』呼び。

だから、わたしの好きなキモチが、100%を上回らない。

101%以上にしたいのに!!

 

利比古くんはテレビ情報誌に復帰している。利比古くんにガッカリしたわたしはカーペットに仰向けに寝転んでスマートフォンを凝視している。

『彼氏 苗字でしか呼んでこない ありえない』

こんなワードを入力して検索を開始する。

AIが作成した回答がまず表示されるけど、参考になる回答では到底無かった。

皆さんが同じワードで検索してどんなAI回答を得られるのかは別として、

「あーもーっ!! AIに恋愛相談は100年早いんだってハッキリ分かっちゃった!!」

「……どうしましたか? 急に天井に向かって絶叫して……」

利比古くんをビックリさせたので身を起こす。小さくて丸いテーブルにスマートフォンを(破壊しない程度に)叩きつける。スマートフォンを強打する音で利比古くんのカラダが震える。

「わたし決めた、わたし決めた」

自分で考えて自分で決めて自分で行動したいわたしは、

「――この部屋から、出ないよ」

と言ってから、

「利比古くんが、『ほのかさん』と呼ばない限りは」

と、「条件」を提示する。

「あなたが『名前呼び』をためらい続けたら、どんどん追い詰められていくんだからっ」

そう言って、

「どうなの!? まさか、『自分から追い詰められていきたい』みたいなシュミとか、あったりしないよね!? そこまで被虐(ひぎゃく)シュミじゃ無かったよねっ」

と、整いに整った彼の顔面に視線を突き刺していく。

彼は、微笑。

わたしの視線突き刺し攻撃が効いてない。

何を考えてるのか分かんない。

不可解だから、焦ってくる。

ジュワリと汗ばむ。上着まで湿らせてくるってゆーの……!?

自分を追い詰めると同時に、相手まで追い詰めてくる……? そんなシュミだってゆーの!? それ、いったいどーゆーシュミ!?

混乱が極まりかけてくるわたしに、

「なんだか、熱っぽくありませんか?」

と、不可解過ぎなボーイフレンドが声を掛けてきたかと思えば、

「『ほのかさん』も、いろいろと敏感なんですね~」

と、わたしの出した「条件」をあっけなくクリアーしてきたから……ボーイフレンドに急激に前のめりになって、『お腹パンチ』を目指していく。