万都(まつ)ちゃんが高校時代より大人っぽく見える。制服から解き放たれたのが大きいんだろう。わたしより2段階以上洗練されたコーディネートだ。文字数の都合とわたしの都合により、コーディネートの詳細は省略する。悔しいから省略するというワケではありません。
中嶋家(なかじまけ)。ひとり娘であるわたしの部屋。窓に冬晴れの空が映っている。その手前に万都ちゃんがいる。勉強机の椅子に腰掛けているのである。
ベッドに着席のわたしは万都ちゃんの優雅な腰掛け方にも眼を凝らしていたんだけど、
「小麦(こむぎ)ちゃんのお家に来るのも久しぶりだわ」
と彼女がおっとりと沈黙を破るから、眼を彼女の顔へと上昇させていく。
わたしより5段階ぐらい洗練されているような髪だった。伸ばした黒髪がささやかに縮れている。
わたしの髪と比較してしまうから、少しだけ眼を逸らしてしまう。
情け無さ過ぎる。
× × ×
万都ちゃんの方がわたしよりもたくさん喋っていた。万都ちゃんの方が「優勢」だった。『小麦ちゃんにしてはテンション低いわね?』だとか訊かれるコトは無かったから運が良かった。
彼女は同期男子の国見八潮(くにみ やしお)くんと◯◯な関係(カンケイ)をどんどん進展させているから、突っついていけば楽しかったんだろう。でもそんな気力あるわけない。降参だった。万都ちゃんにいろいろと降参だった。
宇治抹茶ロールケーキを堪能した後で、宇治抹茶ロールケーキが最高に似合う彼女は中嶋家から去っていった。
まだ正午にもなっていなかった。
× × ×
昼ご飯を無難に作って食べた。スーパーで購入したクロワッサンがいちばん美味しかった。
部屋に戻る。ベッドに座る。肩を落とす。
「今日は、ダメな日だ」
誰も聞く人がいないのに声を出す。
「ダメな火曜日だ」
また声を出す。
昼寝でも、しよっかな。一日を棒に振っちゃうみたいだけど。
× × ×
お昼寝の世界から現実世界に復帰したのとほぼ同時に、スマートフォンから通知音。
『16:00』と表示されているスマートフォンのロックを解除して、通知を確認する。
『そちらにお邪魔してもよろしいでしょうか? トーコちゃんとユーガちゃんの都合で部活動時間を短縮するので、17時過ぎにはそちらに向かえると思うのですが。もちろん、小麦さんの都合が最優先ですけれども』
× × ×
17時過ぎにやって来た卯月(うづき)ちゃんが、わたしの部屋に入るなり、驚きのリアクションを見せてきた。
「どういう心境の変化があったんですか。クラシック音楽を流してるなんて」
「なんとなく、だよ。気まぐれみたいなモノ」
苦笑いしてわたしは応答するけど、
「ただ、チルアウト、というかなんというか……落ち着いたキモチになりたくって」
とコトバを足して、肩をすくめてしまう。
半分だけ本当のコトを言った。
『癒やされたかったからクラシック音楽を流し始めた』というのが、本当のコトの残り半分だった。
わたし基準だと、チルアウトとヒーリングは別個なのだ。
別個であるところのチルアウトとヒーリングを、同時に行いたい……というワケ。
なんか、ややこしいな。
こんがらがってるような感じがする。
整理整頓できてない思考だらけだ。
高校に通ってた頃は、モヤモヤグジャグジャ考えるコトなんて、ほとんど無かったのに。考える前に行動してたのに。
迷走しちゃってる。
ダメだな。
「……体調、悪かったりするんですか?」
卯月ちゃんの問い掛け。
わたしの目前に立って、わたしを見下ろして、問い掛けてきた。
心配のキモチの籠もった声での問い掛け。
ある程度は予測できていた問い掛け。
「食欲不振だとか……」
心配のコトバを卯月ちゃんは重ねるけど、
「不振じゃないよ」
と応答するわたしは、
「昨日も、美味しいパンを求めて、新宿駅から徒歩25分ぐらいのベーカリーカフェに行ったんだし」
と打ち明ける。
打ち明ける、といっても、肝心なトコロは全部隠している。
ベーカリーカフェには1人で行ったワケじゃ無かった。
オトコノコがそばにいた。
巻林英雄(まきばやし ひでお)……マッキーが。
わたしの同期男子たるマッキーが。わたしにとって高校時代最も近しかった同期男子のマッキーが。
「――卯月ちゃんも、座ったら?」
そう促す。
制服姿でやって来た卯月ちゃん。
制服に包まれた幾分小柄なカラダよりも、透き通るようなお肌の方が、圧倒的に眼につく……。