時の流れが早く感じられる。高校生じゃなくなったからだろうか。ついこの前まで猛烈な暑さだった気がする。今はすっかり冬の季節だ。タイムマシンに強制的に乗せられたみたいな感覚。あっという間に年の暮れめいてきた。
もうちょっと、時の流れが遅く感じられてもいいのに。大学の4年間が高校の3年間よりも速く駆け抜けてゆくのはイヤだ。こんな感じだと、気付けば何もしないまま就職活動シーズンになっちゃってそう。それはイヤだ。お腹いっぱい大学生活を味わった後で就活シーズンを迎えたい。
そんなキモチがあるからと言って、サークルに入ってがっつりサークル活動しているワケではない。入学したての頃は、サークルをいろいろと覗いてみた。テニスサークルは論外、スポーツ系もできれば避けたい……という前提でもって幅広く覗いてみたんだけど、強く惹かれるサークルは無かった。大学に入ってから出会った友だちの付き添いみたいな形で『ミステリ研究会』に顔を出していた時期もあったんだけど、ミステリや読書にそんなにこだわりがあるワケでも無かったから、やがて疎遠になっていった。
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今朝、顔を洗った時、
『まだ1年目の12月なんだから、今からでも『間に合う』よね』
という思いが浮かび上がってきた。
今からでも『サークル活動に』『間に合う』というコト。途中で入会するのも、2年の新歓期までぐらいなら許容範囲なんでは無かろうか。3年生になってからの途中入会は「手遅れ」な気がするし、4年生になってからの途中入会なんて「手遅れ」ってレベルじゃないだろう。
異論は認めるけど。
知り合いにいるのだ、4年生になってからサークルに入会してサークル活動を満喫していたヒトが。ただし、『4年生になってから』満喫したというコトなんだから、彼が何年間大学に居座り続けていたのかは『推して知るべし』なんだけども。
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午前9時30分である。
わたくし本宮(もとみや)なつきは自分の部屋の勉強机の前に立っている。
リアルなキャンパスライフをどうやって充実させていくのか考えるのは後回しでもいい。今年が終わるまでに、いや、クリスマスがやって来るまでにやっておくべきコトがある。
勉強机の上に、高校時代に作っていた『校内スポーツ新聞』が散らかっている。机の上の3分の2ぐらいを埋めている。これでは勉強机で勉強しようが無い。幾ら受験勉強する必要が無いと言っても、もう少しキレイな机の上にした方がベターだろう。
散らかしてばかりで、片付けるのをサボっていた。善は急げ。『校内スポーツ新聞』のバックナンバーを然(しか)るべき場所にまとめてみたい。まとめてみるべき。
まとめる場所は手を動かしながら考えるコトにする。
とりあえず、バックナンバーの「山」のいちばん上の号を手に取ってみる。
……興味を惹かれてしまう見出しがある。ついつい、リード文にも本文にも眼を通してしまう。
食べ続けても飽きないお菓子みたいだ。バックナンバーに引き込まれて、紙面から眼を離すコトを忘れてしまう。
止まらない手が、ページをめくる。
将棋に関する記事が眼に飛び込んでくる。
『ちょーーっとまった!! 『校内スポーツ新聞』に何故(なぜ)将棋関連記事を載せる!?』みたいなツッコミは一切受け付けない。
将棋記事の担当者の名前が重要なのだ。
ハイスピードで、将棋記事に眼を走らせる。
誤字混じりの文章の末尾に、『(加賀)』という控えめな記名がある。
加賀真裕(かが まさひろ)先輩だ。
わたしが高校に入学した時の『スポーツ新聞部』の部長。ひょっとしたら奨励会に入っていたかもしれないほど将棋が得意で、将棋関連記事は彼が全て担当していた。
将棋以外のスポーツへの取り組みは真面目とは言えなかった。部活に取材している時も、わたしがインタビューしている横で、あさっての方向を向いて押し黙っているコトが多かった。記事を書くことは書くんだけど、日本語の使い方がお上手であるとは言えなかった。
でも……そういった欠点が、なんだって言うんだろう。
わたしにとって、彼は、加賀先輩は、すっごく大事な存在で。
加賀先輩の担当の将棋記事を久々に眼にしたから、なおさら、なおさら……!!
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ベッドの上で丸まりながら、加賀先輩を凝視するかの如くに、加賀先輩の将棋記事を凝視する。
彼は、現在(イマ)、どこにいて、なにをしてるんだろう。
気になって仕方が無くなる。
彼は1浪して大学に入ったから、2年生。金曜日だから平日なんだけど、大学2年生であるがゆえに、自由に過ごせる余裕がある。彼のコトだから、ひょっとしたら授業をサボタージュして、街角の将棋クラブにでも足を運んでいるのかもしれない。
会いたいな。
わたしがカラダを丸めるたびに、会いたいキモチが膨らむ。
はち切れそうになる。
はち切れる寸前でカラダを広げる。仰向けになる。天井が眼に映った直後に、胸の鼓動が聞こえてきて、微熱を自覚する。
『もし、出会うコトができたら、わたしに優しくしてくれるかな……』
ココロの中で、声を出す。
微熱が拡がり過ぎて、横向きになりたくなる。