【愛の◯◯】夢中になれるモノとヒト

 

桑原(くわはら)ヒロトくんの書いた文章を読んでいる。

大学1年生にしてはキッチリとしている。コンパクトな論文になっていると言っても良い。引用とかもちゃんとしているし、参考文献リストも末尾に書かれている。アカデミック・ライティングをもう既に取得しかかっているから、将来が楽しみ。

ただ、

「――よくぞここまで、テレビアニメの『放映枠』に執着できるものね」

そう言ったわたしは、左斜め前の席に座るヒロトくんに彼が書いた論考を返しながら、

「あなたのその執着を活かし切れる場所が、わたしにはまだ思いつかないけど」

「大学院まで行って研究したいとかは、あまり思ってません。就職したとしても、仕事と並行して、こういう取り組みは続けていきたいと思ってます」

へぇー。

なんだか、既に割り切っているみたい。1年生の段階で割り切るには早い気もするけど。もう『線引き』をしているだなんて、オトナなのね。1年生なんだけど、3年生や4年生みたいなメンタリティに見えるわ。

ヒロト

右サイドから、同じく1年男子の犬伏竜(いぬぶし りゅう)くんの声がした。

犬伏くんは、

「TBSに関する考察が、面白かった。俺の生まれる前に、土曜17時台に6チャンネルでアニメがやってたなんてな。『サクラ大戦』を土曜夕方に放映するなんて、相当攻めてたんだな」

犬伏くんも既に、ヒロトくんの論考に眼を通していたのである。

犬伏くんの好意的な意見を聞けたコトによって、ヒロトくんの微笑みが増す。

それからヒロトくんは、

「現在(いま)『ウマ娘 シンデレラグレイ』を日曜夕方に編成してる6チャンネルも、相当攻めてると思うよ」

「確かにな。『シンデレラグレイ』の後で、『まどマギ』も放送してるコトだし。夕方枠に『まどマギ』は、より一層攻めてるかもしれない」

「『まどマギ』は、TBSじゃなくてMBSの管轄だけどな」

まどマギ』は『魔法少女まどか☆マギカ』の略称。『MBS』は毎日放送の略称。これぐらいのコトなら、わたしにも分かる。

 

× × ×

 

ヒロトくんにも執着があるけど、犬伏くんにも執着があるの」

今日のサークル室でのやり取りを振り返っているわたしは、お吸い物の椀を置いてから言う。

「『ウマ娘以外にも、何かを美少女化できる可能性は無限にあるんです。森羅万象が美少女化の対象なんです!!』って」

「犬伏くんがウマ娘大好き男子であるのは、おれもインプットしてたが」

山盛りご飯を食べ切って空にしたお茶碗を置きつつアツマくんは、

「彼は、具体的には、どんな対象の美少女化を考えてるんだ?」

と訊いてくる。

わたしは犬伏くんの『構想』を具体的に3つ説明した。

説明を聴いたアツマくんが、麦茶を飲み、微笑みを膨らませる。

「たいしたもんじゃんかよ」

『構想』する犬伏くんを称えて、

「何かの美少女化にそこまでこだわるなんて、もはや才能だろ」

 

× × ×

 

アツマくんにしては妥当な意見である。

こだわりが強過ぎると、危うくなる。でも、その危うさも裏返せば、魅力を形作っているのであって。こだわりは、弱くても良いし、強くても良い。人それぞれだ。こだわりが薄いのもこだわりが濃いのも才能なのだ。

わたしも、本と音楽にはこだわりがある。案外、ヒロトくんや犬伏くんのこだわりと同質なこだわりなのかもしれない。

 

カーペットに寝転びながら岩波文庫を読んで、くつろぐ。

それから、ヘッドホンをかぶってソニー・ロリンズをひたすら聴いて、くつろぐ。

1時間ほどソニー・ロリンズを聴いた後で、身をやや起こして、ダイニングテーブルで発泡酒を飲んでいるアツマくんを眺めていく。

今日はまだ彼にスキンシップしていない。

グズグズしたくない。

 

発泡酒はゼッタイに飲ませんぞ。ゼッタイに、ゼッタイにだ。おまえに炭酸を摂取させたら、どんな大変な事態になるか……」

わたしがダイニングテーブルに歩み寄ってくるなり言うアツマくんに、

発泡酒には興味無いわ。わたしが興味あるのは……」

と言って、意図的にコトバを溜めてから、

「あなたよ。今一番興味があるのは、あなた」

「……どーゆーこった」

うつむき気味になりながらつぶやき気味に言うアツマくん。照れ始めていたり? 照れ始めているのなら、好都合かも。

「何かに夢中になれるコト自体が、才能。――良く言われていて、手垢の付いたフレーズではあるけど」

「愛(あい)さん、ハナシが見えてこないんですが」

『中途半端に敬語を使うだなんて、愚かね……』と思いながら、

「わたし、あなたに、ずーーっと夢中になってる。JKの頃から夢中になってて、もう7年以上ってトコロ。これだけあなたに夢中になってるわたしを、もっともっと認めてほしいの」

と、熱いキモチを熱く伝えて、アツマくんの右手を右手で掴んだ。

「『立て』ってか」と彼。

「そーよ」とわたし。

わたしに右手を握られたまま、わたしの彼氏は立ち上がる。

彼氏が右手を離した瞬間、わたしはわたしのオデコを彼氏の厚い胸板に食い込ませ、両腕を彼氏のたくましい背中に回し、ギュムーッっと抱き込んでいく。

「甘えさせてよ」

アツマくんのカラダの中で要求する。

「甘え方にも色々あるだろ。……おまえは、どんな甘え方にこだわってるんだ?」

アツマくんの問いに対して、

「あなたの全部で温まる。11月半ば過ぎの寒さを微塵も感じなくなるぐらい、あなたの全部で温まる」

「おれはヒーターかなんかか」

「ヘタなリアクションはやめてよっ」

むしゃぶりつくように言うわたし。

どこまでもむしゃぶりつきたいから――世界で一番ダイスキな胸板を、オデコでぐりぐりし始める。