「昨日は、4年生男子コンビとカラオケで4時間歌い続けて楽しかったわ」
文学部キャンパスのラウンジに来ているんである。向かって右側には敦賀由貴子(つるが ゆきこ)ちゃん。向かって左側には小松(こまつ)まなみちゃん。2人のキャンパスは本部キャンパスなんだけど、『文学部キャンパス来ない?』とLINEで誘ったら即OKしてくれた。
「愛(あい)さぁん。4時間もカラオケしてる場合なんですかー? 言ってたじゃないですかぁ、『4年生男子コンビと一緒に、来年度のサークル幹部について検討する』って」
苦笑いでたしなめたのは、ボーイッシュな小松まなみちゃんの方だ。「たしなめ」といっても、本気でたしなめているワケでは無いけど。
「歌い続けたらインスピレーションが来ると思ったのよ」
「来たんですか、インスピレーション?」
訊いてくるまなみちゃん、なんだけど、
「来たかどうかは、別の話として」
と自分勝手に答えてから、
「あなたたちから見て、3年生の男の子たちは、どーよ? あの連中の中から、幹事長や副幹事長を選んでいくんだけど」
「……流されたみたいになっちゃった」
顔に若干呆れの混じるまなみちゃんは、
「3年生男子といっても――『レギュラーメンバー』は限られてきますよね。古性(こしょう)シュウジ先輩、新山(しんざん)ブンゴ先輩、ちょっと影は薄いけど、眞杉洋(ますぎ よう)先輩。……この辺り」
「まー、その辺りよねえ」
そう言ってから、視線の向かう先を移してみる。
わたしから見てまなみちゃんの右隣に座る敦賀由貴子ちゃん。彼女の可愛らしいブラウスに眼を凝らす。
ブラウスから顔へと視線を上げていって、
「由貴子ちゃんは、どんな認識? 3年生男子の批評(レビュー)を、是非ともしてもらいたいトコロなんだけど。とりわけ、古性シュウジくんと新山ブンゴくんについて」
由貴子ちゃんは苦笑いで、
「その2人に限定した理由はなんなんですかね」
「3年生の中核を担ってるからよ。とりわけ、シュウジくんは、由貴子ちゃんの高校のセンパイでもあったんだし」
「シュウジ先輩ですかあ。う~ん」
少しだけ考えた後で、
「シュウジ先輩が幹事長になったりしたら、サークルがヘンな方向に行かないかどうか心配です」
「サークルの『色』が変わっちゃうってコト? シュウジくんは文学青年的キャラだから、『漫画研究』『ソフトボール』という2本柱に『文学』を付け足しちゃうとか」
「まさにそーゆー心配なんですよ。サークルのコンセプトが一気に変わっちゃったりしたら、愛さんもイヤでしょ?」
由貴子ちゃんはシュウジくんに辛口。
辛口ガールの由貴子ちゃんは、とっても甘口と思われるホットココアを啜っていく。
彼女が紙コップを置いたタイミングで、
「それじゃあ、ブンゴくんは?」
と訊いてみたら、
「ブンゴ先輩は、『漫画研究』への取り組みが疎(おろそ)かです。ソフトボール命なのは良いけど、サークル部屋に来ても、ワンピとか鬼滅とか呪術とかしか読まないし」
野球漫画も読めば良いのにね。高校まで野球少年だったんだし。『ストッパー毒島(ぶすじま)』とか、読ませたらどーかしら。
……それはそうと、
「由貴子ちゃん由貴子ちゃん」
わたしは2回も名前を呼び、
「この前ね、サークル部屋でブンゴくんと2人で居た時、彼が言ってたの。由貴子ちゃんに『打撃指導』がしたいって」
顔を赤らめつつしどろもどろに言っていたのは伏せる。
ただ、ブンゴくんの『キモチ』をそれとなく示唆するコトは、やっておきたくって。
しかし、
「ブンゴ先輩、わかってなーい」
と無情にも言う由貴子ちゃんは、
「わたしの『漫画指導』の方が、先ですよーっ」
と、ブンゴくんのキモチを挫(くじ)いていく……。
由貴子ちゃんのブンゴくんへの認識に哀愁を覚えつつ、まなみちゃんに再び眼を転じていく。
繰り返すようだがボーイッシュだ。身長165センチなのも(わたしに言わせれば)ボーイッシュだ。スポーティーな装い。スポーティーなバッグ。羽織っているウィンドブレーカーは濃い青色。やるわね。
……実は、わたしは、とある『情報』を握っていた。
未確認な段階の『情報』。でも、きっと――。
「……ボーイッシュな女の子の『意外な側面』が、わたしの大好物の1つで。嗜好が気色悪いのかもしれないけど」
紙コップを右手に持ったまなみちゃんがキョトーン、と、
「いきなりなんですか、愛さん……?」
と言い、
「あたしの顔にずーっと眼を寄せてるし。あたし、愛さんよりも3段階ぐらい顔面偏差値落ちるから、眺め続けたって仕方無いよーな……」
「まなみちゃーん」
わたしは、穏やかに優しく柔らかく、
「『顔面偏差値』ってコトバは、今この瞬間からNGワードよ」
うろたえ始めていくまなみちゃんがいるから、畳み掛けるように、
「本来あなたは本部キャンパスの人間で、しかも理系専攻なんだけど――こっちの文学部キャンパスにも、ある程度馴染んできていて」
まなみちゃんの背すじが一気に伸びた。
たじろいでいるんだ。
「ねーねーねー」
邪悪な先輩風(せんぱいかぜ)を吹かせながら、わたしは、
「今度いつ、お食事に行くの?」
「……はいっ!?」
ビビってしまうまなみちゃんの背すじがさらに伸びる。過剰に伸びる。
それを楽しんで、
「『誰か』と、お食事に行く――月に2、3回のペースで、そういうコトができたなら、生活がリアルに充実していくわよねえ」
と、より一層邪悪なオンナとなっていき、
「オトコノコを相方にできるのなら、尚更。」
と、右手で頬杖をつきながら、トドメを刺す。
――まなみちゃんが、ほってりと火照り始めた。