「わたしは5年生、あなたたち2人は4年生。ゆえに、わたしとあなたたち2人は来年の3月で卒業しちゃうワケで」
左斜め前の席には和田成清(わだ なりきよ)くん、右斜め前の席には幸拳矢(みゆき けんや)くん。
4年生男子コンビに語り掛けるようにして、
「今月が終わるまでには、新しい幹事長と副幹事長を誰にするのか考えなきゃ」
新幹事長は、2年連続で務めたわたしの後任というコトになる。今年度は副幹事長は置かなかったけど、成清くん&拳矢くんが事実上の副幹事長的ポジションだった。
来年は、新しい子に幹事長になってもらい、副幹事長のポストも復活させる。
わたしは、成清くんの方に顔を向けて、
「3年生に託すのが順当だって思ってるんだけど。あなたも同じキモチよね?」
成清くんは、
「まぁ、フツーそうなるっすよね。3年生は、来年度4年生で、最高学年になるワケっすから」
あなたが常識的見解を持ってくれていて嬉しいわ。常識的見解を持っていない男子もたくさん知ってるんだもの、わたし。
「じゃあ、3年生会員の中から絞り込みね。もしかしたら、成清くんの頭の中で、『候補』が既に浮かんできてるんじゃないの?」
期待を籠めて彼を見るが、
「いや、そこまでは、まだ。最近、バンド活動が忙しくって。次の日曜日もライブに出るコトになってて……」
という答えが返ってきたから、ゲンナリ。
シビアに切り換えんとして、わたしは、成清くんに背を向け、拳矢くんに顔を向ける。
ニコニコと、
「わたし信じてるわ、成清くんとは違って、拳矢くんならば、期待に応えてくれるって」
「どんな期待ですか?」
と拳矢くん。にぶいわねー。
「3年生会員の中で定着してるメンバーは限られるし。具体的には、古性(こしょう)シュウジくんや新山(しんざん)ブンゴくんね。あなたなら、シュウジくんやブンゴくんの『適性』を探り始めてくれてるんじゃないかって。そんな風に期待してて」
「『適性』?」
鈍感ボーイな拳矢くんが首を傾げるから、
「ねえ拳矢くん。あなた、声優さんの『適性』ばかり考えてるようでは、サークル員失格なのよ?」
と言って、カラダをやや前方へ寄せて、
「『この声は主役向き』『この声は脇役向き』『この声はシブい中年男性向き』『この声は中性的な男の子向き』『この声はツンデレ向き』『この声は悪役令嬢向き』『この声は子供みたいな外見の大人のお姉さん向き』とか、声優さんの『適性』なら、いくらでも探れるのかもしれないけどっ!!」
と一気に言い、それから、
「そんなコトばっか考えてる場合じゃあ……なくなってきてるのよ。自覚、持ちましょ?」
と、23歳のバースデーを迎えたばかりの女子に相応しき慈悲深い笑みをたたえながら、彼を『その気』にさせようとする。
でも、わたしがせっかく慈悲深く笑い掛けているというのに、気恥ずかしそうに、拳矢くんは顔を逸らしてしまうのだった。おバカ。
両腕を組むわたし。
「拳矢くんは、『声優さんのコトしかほとんどアタマに無いですよボーイ』で終わるつもりなの!?」
わたしのコトバの勢いにビクゥッ、と反応する拳矢くん。しかし、わたしに向き合おうとはせず、逸らした顔のほっぺたの赤みを濃くしていくだけ。
ラチがあかないじゃないの。
あなたたちには、頼れるトコロもあるっていうのに。わたしを助けてくれたコトもあるっていうのに。例えば、今年の4月。新歓時期の手続き絡みで困り果てていたわたしを、2人が助けてくれた。あの時は、自分たちから進んで『手伝います』と言ってきてくれた。わたしはかなり弱っていたから、大いに助かった。感謝のキモチで、胸がぽかぽかあったまった。
『もう一度、肝心なトコロで、わたしをサポートしてよ。……できないの、ホントに!?』
わたしは、拳矢くんの顔面をぬ~~~っと見た後で、成清くんの顔面もぬ~~~っと見る。
× × ×
それからわたしは約30分間近く『打開策』を考えた。
わたしがこめかみを押さえていたからか、拳矢くんが心配そうに、
「あの……。羽田(はねだ)センパイ、頭痛……ですか? もしや、ぼくたちが至らないせいで、考え込んじゃって、それで……」
「け・ん・や・く・ん」
「は……ハイッ」
「デリカシー、足りてる?」
「え」
ホントにもう……と、わたしは大きく溜め息をつく。
だけど、それから苦笑いになって、
「拳矢くんも成清くんもどーしよーもないから、状況を変える方法を考えたわ」
「おれは拳矢と比べたら、まだマシじゃなかったっすか!?」という成清くんの浅ましい叫びに耳を貸さず、
「カラオケ、行きましょーよ!!」
「ええっ、カラオケで遊んでる場合ではないんでは……」
と言う拳矢くんを制して、
「場合なのよ」
とわたしはハッキリ言う。
「熱唱すれば、良いアイディアも浮かんでくるかもしれないじゃないの」
「科学的根拠は……」
とかあり得ないコトを言う拳矢くんを再度制して、
「声優ソングは、6曲までなら歌ってOK」
と、声優を骨まで愛している彼に告げる。
「『6曲』という曲数の根拠は?」と拳矢くん。
「根拠無し」とわたし。
「キャラクターソングは?」と拳矢くん。
「含む」とわたし。
拳矢くんの顔色が良くなる。
キャラソン封じられちゃったら、歌える声優ソング激減しちゃうもんね。
わたしの背後から、
「センパイ!! 同じ曲で採点勝負しませんか!? おれとセンパイの歌唱力なら、際どい勝負に……!!」
と叫んでくる現役バンドボーカルには、耳を貸してあげない。