【愛の◯◯】男の子がいきなり現れて口数激減

 

「脇本(わきもと)くんはね、大学でずっと同じサークルだったの。今は、図書館司書の勉強をしているの」

脇本浩平(わきもと こうへい)くんを松若響子(まつわか きょうこ)さんと木幡(こわた)たまきさんに紹介している。街を歩いている脇本くんを発見したわたしは、さっき退店したばかりの『メルカド』に彼を連れ込んだ。わたしの左隣に座らせて、松若さん・たまきさんコンビと向かい合わせている。

脇本くんがコーヒーをずずっ……と啜る。緊張が顕著だ。入店してからずっとこんな状態。

顔馴染みの店員さんが通りがかったので、

「彼に本日のケーキを提供してあげてください」

とお願いする。

おそらくは30代前半の女性店員さんがウィンクする。

彼女が通り過ぎてから、

「ねえねえ、松若さん、憶えてる? 高3の夏休みに、あなたと2人で、『読書』をテーマにしたセミナーに参加したコト」

と訊いてみるわたし。

わたしから見てたまきさんの左隣の席についている松若さんは即座に、

「憶えてるよ」

と答えてくれる。

わたしは、

「実は、あのセミナー会場に、脇本くんも居たのよ。わたし、休憩時間に、脇本くんとお喋りしたの」

松若さんは、

「そんな昔から知り合ってたんだねぇ」

と感銘を受けたように言い、

「あたしは『脇本くん』って参加者の名前、全然憶えてなかった。ゴメンね、脇本くん」

「そんな……。憶えてる方が、レア中のレアケースなんだし」

不甲斐無い喋り方をする脇本くん。彼の手元に本日のケーキが置かれる。

「でも、わたしや松若さんとは『縁(えん)』があるワケなんだし。松若さんとたまきさんは、今月は今日だけが平日の仕事休みなんだから、あなたを是非『キャッチ』して2人に紹介したかったのよ」

「『キャッチ』って。羽田さん……」

そんな困惑の声を発する脇本くんに、

「本日のケーキの代金はわたしが払うから、『拘束』されてほしいわ」

「はっ羽田さんっ。『拘束』だなんて、ちょっと物騒な表現だと思うんだけど」

慌てながら言う脇本くんをスルーして、

「2人は、彼に訊いてみたいコトとか、ある?」

「はいはいはーい」

松若さんがすぐさま挙手して、

「羽田さんは、サークルでどんな感じだった? やっぱし、光り輝く存在だった?」

松若さんが訊いているのに、彼は本日のケーキを食べている最中。タイミング悪いわねー。

ケーキを飲み込んでから、お冷(ひ)やを喉に流し込み、微妙な間を作った後で、

「光り輝いてたよ」

と彼は言い、

「特に、ソフトボールで。投手としても打者としても成績は常にトップだった。たとえて言うなら、大谷翔平的な存在だった」

「ほおーっ。やっぱし、羽田さんは最強なんだねぇ!!」

松若さんが感嘆する一方で、

「脇本くーん?」

「なっなに、羽田さん……」

「安易に大谷でたとえるのは、NG」

「エッ」

ベーブ・ルースでたとえるのも、なんかヤダ」

「でっでも、きみは二刀流だったんだし」

「――コーヒーをお代わりさせてほしいんだけど」

「……羽田さん??」

 

× × ×

 

わたしの武勇伝を脇本くんに語らせていく一方で、脇本くんの『おっちょこちょいエピソード』をわたしの口から発していき、彼を傷(いた)めつけた。

ショボショボとなる大学同期男子に構わず、わたしから見て松若さんの右隣に着席しているたまきさんに顔を向ける。

たまきさんの口数が極端に少なかったから、気になっていた。

――たまきさんの表情を見て、わたしは楽しい気分になった。

口数が激減した理由が、なんとなく分かったからだ。

 

× × ×

 

メルカド』を出た。帰路につく脇本くんを3人で見送った。

わたしが『みんなでカラオケでも行く?』と誘ったら、彼にすごい勢いで断られた。断られたお返しに、『万が一、司書資格を取れなかったら、わたしが千本ノックして鍛え直してあげるわよ!!』と、脅すと同時に激励した。

 

「脇本くん帰っちゃったね」

佇みながらわたしは言い、

「晩秋の夕暮れになっちゃった。脇本くんも離れていっちゃったし、なんだか物寂しいや」

と言ってから、左斜め後方の松若さんに眼を寄せる。

「松若さんは、脇本くんともっと話したかった?」

そう訊くと、

「あたしは満足だよ。羽田さんが彼をイジくるのを見るのも楽しかったし」

と答えてきた後で、

「だけど、たまきの方は――満足、してないのかも」

と言い足して、やや離れた場所にあるベンチに独りぼっちで座っている木幡たまきさんに、温かき視線を送った。

楽しい気分が昂(たかぶ)るわたしは足を動かし始める。

あっという間に、ベンチ座りのたまきさんの真正面までやって来る。

「……どうしたの?」

わたしの顔を見上げられずに、彼女がボソッと言う。

「あなたがずーっと口数少ない状態だったから、気がかりだったのよ」

わたしはそんな風に柔らかく言うけど、

「体調が悪そうな様子も無かったのに、全然喋らなかったから、『どーしたモノかなー』って思ったりもした」

と、意味深に言うのも、忘れない。

それから、連続攻撃みたいに、

「脇本くんだけどねえ、サークル以外にも、知り合いの女の子、比較的多くって」

と情報を送り届けてみる。

たまきさんが、ふるっ、と震えた気がした。

可愛い反応。これは、可愛い反応。

大学4年間は男女共学だったはずのたまきさん、なんだけど。

いきなりの男の子の出現、みたいな局面に、慣れてはいなくって。

しかも。

脇本浩平くんみたいなタイプの男の子が、木幡たまきさんという女の子には、おそらく……!!