【愛の◯◯】優しくしてあげないのはもったいない

 

わたしが高校2年、あすかちゃんが高校1年の時のコトだった。

 

部屋の暖房の効きが少し弱かったから、あすかちゃんの温もりを求めてあすかちゃんの部屋へ行った。『あすかちゃんと一緒に寝たいの』とお願いした。

『兄貴のトコロに行けば良いのに。恋人同士なんだから』とあすかちゃんにお行儀悪く言われたけど、『今夜は、あすかちゃんの方が良いの……』と懇願した。わたしのキモチが伝わり、とうとう承諾してくれた。

 

――で、あすかちゃんのベッドをあすかちゃんと共有したわたしは、時間をあまり要さずに眠りにつくコトができた、ワケなんだけど、

『おねーさん、ベッドの中で、結構わたしに甘えてた』

と、翌朝、身を起こした途端に、既に身を起こしていたあすかちゃんに大きな笑みで言われたから、ぶわぁあ……と、汗が滲(にじ)み出すほどにカラダから熱が迸(ほとばし)った。

掛け布団をギュッと抱き締めながら、右隣のあすかちゃんに、

『『甘えてた』って、どーゆーコト……!? わたし、もう少し具体的に言ってほしい』

と迫ったんだけど、

『カラダを濃厚にくっつけてきてましたよね』

と具体的に言われてしまったから、つらくなった。

『わたしのパジャマが大好きなんですね、おねーさん。……あるいは、パジャマではなく、わたし自身の――』

余計なコトバを重ねてくる彼女を遮り、

『寝言(ねごと)!! 寝言は!? 寝言は、言ってた!?』

と、彼女の右肩を右手で押さえながら、答えを求めた。

『言ってましたよ、寝言』

すんなり答える彼女に、

『どんな寝言だったの!? 憶えてるんでしょう』

となおも迫っていったのだが、

『甘~い寝言でした☆』

とお行儀の良くない笑顔で言われてしまって……チカラが抜けていってしまったのだった。

 

× × ×

 

あすかちゃんの方が生まれ年度が1つ下。揺るぎない事実である。

本来はわたしの方が『おねーさん』なはずなのに、結構な頻度で、わたしの方からあすかちゃんに『甘えてしまう』イベントが発生する。

上に述べたような事例は、ほんの一例に過ぎない。

 

どっちの方が『おねーさん』なのか、分からなくなるコトが少なからずある。

こっちは2002年11月生まれ、あっちは2003年6月生まれ……。生まれ月が7ヶ月しか違わないのも影響しているんだろうか。

もちろん、わたしの方が『おねーさん』としてあすかちゃんを助けたり支えたり後押ししたりする場面も多くある。

だけども、あすかちゃんにあすかちゃんの『おねーさん』として注ぐ優しさの量が、まだ足りていない気がして……。

 

× × ×

 

「だいぶ風が冷たくなってきたわね」

あすかちゃんのお部屋。窓外(そうがい)の曇天を見つめながら、わたしは呟くように言う。

「そーですねー。一気に、冬近し、って感じですね」

ベッド上に腰をくっつけているあすかちゃんはそう応えた後で、

「でも、冬が始まる前に――」

と言ったかと思うと、

「もういくつ寝ると、おねーさんのバースデー。何しろ4日後に迫ってるんだし、カウントダウンはもう開始されていて」

「おーげさよ、あすかちゃん」

呆れ笑い半分・苦笑い半分で軽くたしなめるけど、

「予祝(よしゅく)、欲しくありませんかー?」

と、あすかちゃんが止まってくれない。

呆れ笑い半分・苦笑い半分のままに、

「いつぞやの阪神タイガースの監督じゃーないんだから。ネタが賞味期限切れよ」

とツッコミを入れる。

ツッコミを入れられてしまった彼女は、ペロリと舌を出してきてから、

「手厳しいですね」

「そうかな?」

「そう感じます」

「ごめんなさいね」

「謝らなくても良いです。謝らなくたって、問題なんか何もありませんから☆」

どこかで聞いたようなフレーズを出してきたかと思うと、わたしの妹分は自分のベッドから軽快に立ち上がる。

「おねーさんの言う通り冷えてきたんですけど、実はこういう時期が、バニラアイスクリームは絶妙に甘くて美味しいんですよ☆」

如何にも根拠あやふやな理論が言い放たれた。

「バニラアイス、食べたいの?」とわたし。

「食べたいです」とあすかちゃん。

あすかちゃんは出入り口ドアにぺたぺた歩み寄っていって、

「2人分調達して来ますから」

と告げてくる。

 

× × ×

 

そう言えば午後3時台だ。おやつの時間だ。

彼女が舞い戻ってくるのを待つわたし。体育座りを解除して、床に両脚を伸ばして、なんとなく天井に顔を向けてみる。

『大学5年生のわたしも大学4年生のあすかちゃんも、来年3月で卒業して世の中に解き放たれるんだから、平日午後3時台にこういう風に過ごせるのも、あと僅かなのよね……』

こんなコトを思ったり、

『あと僅かしかこういう時間が持てないのなら、あすかちゃんに……もーっと、ベッタリしちゃいたいかも。優しくしてあげないのは、もったいないし』

こんなコトを思ったりする。

 

× × ×

 

「ごちそうさま、あすかちゃん」

バニラアイスが入っていたカップを置くと共にそう言ってから、

「とっても幸せそうね、今のあなたの顔。根っからの『バニラアイス大好きっ子』なだけはあるわ」

と、あすかちゃんをジットリジットリ見ていく。

照れ始めるあすかちゃん。

可愛くて、

「ホントに良かったと思う、わたしが冷蔵庫の中のあすかちゃんのバニラアイス食べちゃって大ゲンカになるような事態が起こらなくって」

と言い足す。

「またまたまた、おねーさーん。いくらわたしの『バニラアイス愛』が強いからって、食べられちゃったぐらいで激怒したりなんかしませんからぁ」

そう言ってから、彼女は少しうつむき、

「『これまで』のケンカの原因は……違った毛色のモノだったんだし」

と、しみじみとした声を出す。

ささやかな沈黙が産まれてくる。

……わたしの方から、『破って』いきたかったから、

「クヨクヨするのは、ちょっと『いただけない』かな」

と、妹分の顔をシッカリと見つめて言い、

「ねえ、あすかちゃん。オネガイがあるんだけど」

「……なんでしょうか」

「ベッドの上に、座ってくれないかな」

ベッドの側面にカラダの後ろ側をくっつけていた彼女は、意表を突かれて、

「わたしがわたしのベッドに座るのを求める、理由って……?」

「それは、あなたが『おねーさんの言う通り』にしてくれたなら、教えてあげる」

絶句のあすかちゃんが眼に映る。

腰を浮かせるのを少しだけ迷っている。迷いぶりが可愛い。

わたしの顔を直視できず、床方面に視線を落とすけど、ついに腰を浮かせてくれて、ついにベッド上にぽしゅん、と腰を下ろしてくれた。

可愛い可愛い妹分目がけて一気に接近し、正座になる。

「なんで正座になったの、おねーさ……」

妹分が問いを出し終わる前に、わたしの右手を彼女の黒髪の頭頂部に密着させ、150%の愛情でナデナデし始める。

「おねーさんっ!?」

型通り上がる悲鳴。

自分のオデコをくっつけていくべき場所を、わたしは考えている。