小泉小陽(こいずみ こはる)です。
今の状況を箇条書きでまとめてみたいと思います。
・今日は日曜日
・同じ女子校出身の3人で女子会 ※ただし、わたしだけ2学年先輩
・女子会の構成メンバーは、
・わたし(小泉小陽)
・アカ子さん
・羽田愛(はねだ あい)さん
・女子会の場所は、羽田愛さんの彼氏たる戸部(とべ)アツマくんの実家の邸宅
――箇条書きを使うと、スッキリして良いね。
× × ×
「アカちゃん、あなたの彼氏は今どこで何をしてるの?」
カスタードプリンを食べ終えた羽田愛さんが、真向かいのソファに優雅に腰掛けるアカ子さんに言った。
「ハルくんのコトがそんなに知りたいの?」とアカ子さん。
「知りたいの」と羽田さん。
「帰国したばかりのハルくんと会った時は、愛ちゃん、彼にあんなにビクビクしてたのにねぇ」
「……現在(イマ)は違うから」
わたしから見て左斜め前のソファの羽田さんが少しむくれている。アカ子さんに対してこんな態度を示すのは珍しい。
一方、わたしから見て右斜め前のソファのアカ子さんは至って冷静沈着だ。
「ハルくんはね、スペイン語を教えるために、休日出勤なの」
と彼女は情報開示。
羽田さんは何故か悔しそうに、
「順調みたいね、スペイン語講師のバイトも。バイトに過ぎないとはいえ、休日出勤までしてるんだから、かなり稼いでるんでしょ」
「彼は、まだ稼ぎ始めたばっかりよ♪」
何故かルンルン気分といった感じで羽田さんを翻弄するアカ子さん。
アカ子さんはさらに、
「もしかして、妬いてるの、愛ちゃん? 愛ちゃんが学んでないスペイン語を、ハルくんが講師として教室で教えてるから」
「ななななっ」
すこぶる美人なはずの両眼を見開いて羽田さんは驚き、それから、
「妬いてなんかない、妬いてなんかないもんっ。わたしがスペイン語勉強し始めたら、たぶん約2ヶ月で、ハルくんなんか瞬く間に追い抜いてみせる……」
「未知数~☆」
「ちょ、ちょっとアカちゃん今日に限ってどうしてそんなにイジワルなのっ!?」
慌てふためき叫ぶ羽田さん。
彼女は次第にピキピキとなっていって、
「……どーせ『昼飲み』を思う存分愉しみ尽くすつもりだったんでしょーけど、あなたが飲む量を制限したくなってきたわ」
× × ×
『限度は守るわよ♪』と告げてアカ子さんがダイニング・キッチンに消えていった。当然、お酒を吟味するため。
まだピキピキしている羽田さんをわたしは宥(なだ)めようとする。
「羽田さんがアカ子さんとケンカなんて、珍しいねえ」
「ケンカじゃありません。アカちゃんの発言がちょっとだけ気に食わないだけですっ」
「怒ってるんじゃん」
「いいえ」
「えっ?」
「むしろわたしはハルくんに怒りの矛先を向けていて……」
「……なんでそーなるかな」
ピキピキするのに疲れたのか、羽田さんはソファに背中を引っ付けて、小休止。
わたしは、眼を閉じて小休止の羽田さんの姿をしばし味わう。
だけど、羽田さんに見入る以上に、わたしには『するべきコト』があって。
だから、
「羽田さん、羽田さん」
「……はい」
呼ばれてすぐに眼を開けて応答してくれて、ありがたい。
「羽田さんなら――」
わたしは彼女にマジメに眼を寄せて、
「――もう、立ち直り切れてるかな?」
彼女はやや意表を突かれたみたいになったけど、
「『教員採用試験不合格』の話題なんて、とっくに旬を過ぎてますよ」
と苦笑いで言ってくる。
「強いな。流石は羽田さんだ。スーパーヒロインなだけはある。負けないんだね」
「ハイ」
わたしに向かってカラダをやや傾けてきてくれて、
「ダメージなんて、抜けてます。もう、負けません」
とチカラ強く言い放ち、その後で一拍置いてから、
「来年には絶対に、小泉さんに追いつきますから」
と宣言する。
現役教師のわたしに追いつく。『羽田愛先生』になる。
前のめりで誓ってきた眼が、自信に満ちた輝きを放っている。
「だったら、来年、わたしに『羽田先生』って呼ばせてよね」
「ハイ。『小泉先生』」
笑顔で応える羽田愛さんは、
「『愛先生』って呼んでも、良いですよ☆」
と、無邪気さ満点の声で。
× × ×
「わたしたち3人、『共通点』があるわよねえ」
そう言い出したのはアカ子さん。
アカ子さんにウィスキーを注いでもらいながら、羽田さんが、
「ロクでも無い共通点をデッチ上げたんじゃないでしょーね?」
「コラコラ羽田さん、教師になりたいのなら、アカ子さんへの反発心はそろそろ鎮めなくちゃダメだよ」
やんわりとたしなめるわたし。
恥ずかしそうに真下を向く羽田さん。
「『3人ともカレシ持ち』。――そんなトコロなんでしょ、アカ子さん?」
「よく分かりましたね、小泉さん!」
社長令嬢らしい優雅な笑顔を見せてくる彼女が、
「わたしにはハルくん、愛ちゃんにはアツマさん、そして小泉さんには、理系青年の大川(おおかわ)さん」
と言いながら、自分のグラスにもウィスキーを注ぎ入れ始めると共に、眼を細くしていく。
『理系青年の』は必要だったのかな。
まーいっか。
今日はわたし、大川くんからのデートの誘いをお断りして、この場に来ている。
デートよりも女子会を優先させられて、少し残念に思っているのかも。大川くんの性格ならば、ムカムカ怒ったりはしていないだろうけど。
ドタキャンではなかった。だけど、わたしの都合によってデートが延期になったのは事実。
今日、帰ってから、謝ろう。
忘れずに――。