【愛の◯◯】青島さやかちゃんがテーブルを強打する音が響く

 

青島(あおしま)さやかさん。泣く子も黙る『日本の最高学府』の院生である。そして、羽田愛(はねだ あい)ちゃんの女子校時代からの親友である。

1限目が始まったばかりだからまだ閑散としている、わたし&愛ちゃんの大学の文学部キャンパスのラウンジ。青島さやかさんは、朝のラウンジまでわざわざ『遠征』して来てくれていた。

愛ちゃんと青島さんは正方形のテーブルを挟んで向かい合って着席している。わたしは、別の席から椅子を持って来て、両者に眼を配るコトのできる位置に座っている。

わたしから見て左斜め前に愛ちゃん、そして、わたしから見て右斜め前に青島さん。

青島さんは、164センチのわたしと身長はほぼ変わらない。でも、彼女の方がたぶん脚は長い。ジーンズ穿きの彼女。わたしよりも2段階ぐらいジーンズ穿きが似合っている。スカートを選んで正解だったな。

女子同士だけど、ジーンズを眺めてばかりはダメだから、視線を上昇させてみた。

青島さんと眼が合った。

「ミアさん」

青島さんが、微笑しつつ、わたしの名前を呼んできて、

「ミアさんの長い髪って、カワイイと思う」

と予想外なコトを言ってきた。

「ヘンなコト言ってるかもしれないし、気分悪くしたらゴメンナサイ、なんだけど」

そう付け加える青島さんに対し、わたしは、

「ううん。『カワイイ』は、意外だったけど……嬉しいよ」

とキモチを伝える。

男女問わず、奔放に伸ばしたわたしの髪を『カワイイ』と形容してくれた人は、これまでほとんどいなかった。

青島さんが『初めて』なのかも。

嬉しくて、胸が温まる。

わたしは、

「青島さんの、わたしの半分ぐらいの長さの髪だって、カッコ良く似合ってるし、カワイく似合ってると思う」

と伝えてあげる。

「ほほぉ」

青島さんの微笑が膨らみ、

「『カッコ良く似合ってる』は言われたコトがあるけど、『カワイく似合ってる』は初めて言われたかも」

というコトバの後で、

「ありがとう」

という感謝のコトバが届けられてくる。

それから、

「『青島さん』なんて苗字呼びじゃなくたって良いよ。『さやか』って呼んでくれて良いよ」

青島さんのそんなお願いに、わたしはさほど間を置かず、

「わかった。『さやかちゃん』って呼ぶよ。さやかちゃん、これからもよろしくね」

さやかちゃんは微笑を絶やさず、

「こちらこそ、ミアちゃん」

と言ってくれる。

ここで、わたしとさやかちゃんのやり取りをウォッチングしていた愛ちゃんが、

「さやかは、『ミア〝さん〟』呼びが『ミア〝ちゃん〟』呼びになったけど」

と言い、

「さやかが他の女の子を『〝ちゃん〟付け』だなんて、珍しくない?」

と指摘する。

「否定はしない」

素直な応答のさやかちゃんを、

「『呼び捨て』への『ランクアップ』は、まだまだ遠い道のりになりそうだけど♪」

と愛ちゃんがからかう。

愛ちゃんお得意の、卑怯なまでにキュートなイジワル笑顔だ。

「あのねーっ。愛、あんただって、ミアちゃんは『ミア〝ちゃん〟』呼びなんじゃないの」

応戦するさやかちゃんは、『まーた面倒くさい親友女子になってきたよ……』とココロの中で嘆いていそうな顔。

「それとこれとは違うのよ」と愛ちゃん。

「何それ」とジト目のさやかちゃん。

微笑ましいやり取りではあるけど、「もつれる」のは避けたかったから、

「愛ちゃんとさやかちゃんは、呼び捨て同士だけど、いつから呼び捨て同士になったの?」

とクエスチョンを食い込ませていく。

一瞬だけ顔を見合わせる2人。

それから、さやかちゃんの方が、

「あんたから説明しなよ、愛」

と愛ちゃんに促す。

「了解」

そう言って愛ちゃんは、

「ミアちゃん、そこそこ長い話になるんだけどね――」

 

× × ×

 

中等部時代は、疎遠というか何というか、お互いのコトをまだ良く知らない状態だった。

双方が持っていたのは、どちらかと言うとネガティブ寄りの印象だった。

愛ちゃんには、さやかちゃんが『クラスや部活(弦楽部)で他人と上手く折り合えない女子』だというイメージがあった。さやかちゃんには、愛ちゃんが『学業優秀・スポーツ万能で名を轟かせてはいるけど、エキセントリックな行動で先生方の手を焼かせてしまっている姿の方が眼に付く女子』だというイメージがあった。

色々な◯◯があったんだねえ。

でも、

「ぶつかって、和解して、トモダチになって。――それからすぐに、互いを呼び捨てにできる仲になって」

わたしはそう言ってから、左サイドの愛ちゃんと右サイドのさやかちゃんの両方にウットリと眼を配り、それから、

「まるで、猛スピードで関係が進展したカップルみたい」

と言い放つ。

愛ちゃんが、ポカンと口を開けてから、ほっぺたに熱を滲ませ始めて、

「カッ……プル……??」

と戸惑いの色濃き声を漏らす。

わたしは、

「だよ。そーゆー形容がピッタリだと思って」

と冷静沈着に。

「あ、あ、あのね、ミアちゃん……?」

うろたえの愛ちゃんは、

「わたしとさやかの関係の定義は、『大切な親友同士』、なんだし」

と、わたしに向かって上半身を傾けつつ言って、それから、

「さやかだって、『恋する女の子』なんだから」

と、大変大変興味深いコトを言ってくる。

そして愛ちゃんは、畳み掛けるように、

「わたしにはアツマくんって彼氏がいるけど、さやかにも彼氏がいるのよ!!」

と、結構な大声で、情報開示。

さやかちゃんがテーブルを強打する音が聞こえてきた。

あちゃあー。

「……よっぽど、朝早くから、わたしに痛めつけられたいみたいだね」

シリアスに愛ちゃんに告げるさやかちゃんの右手がとっても強く握り締められていた。

「さやか~」

物怖じしない愛ちゃんは、

「あなたの彼氏の年齢を今ここで公表したら、あなたは何発わたしをパンチしたくなる?」

大親友たるさやかちゃんにコトバを寄せる。

『年齢』というワードが気になっていたら、さやかちゃんが、

「5発以上!!」

と怒りの籠められた声を発した。

「5発以上かー」

と言って愛ちゃんは、

「それは、イタいなー」

と言いつつも、

「ミアちゃんミアちゃん。アツマくんも、わたしより年上なんだけど、さやかの交際相手の殿方も、さやかより年上なのよ」

へーーっ。

わたしも、年上の男子が彼氏だったコト、あるけど、さやかちゃんの『お相手』の男性(ヒト)、どのくらい彼女と年齢(トシ)が離れてるんだろう。

……そんなコトを思いながら、右サイドのさやかちゃんがテーブルを乱打する音も楽しむ。