【愛の◯◯】バッティングセンター固執

 

録画したアニメを観ていたら愛(あい)が急速に近付いてきて、

「アツマくん。アニメの美少女じゃなくって、わたしの美貌(びぼう)を見て」

「なんで?」

どうしようもない言い回しのパートナーに顔を傾けつつ訊いたらば、

「このブログの管理人さんからメッセージ」

うげげ。

管理人のヤローからメッセージが来るとロクなコト無いんだよな。

明後日、10月13日は、更新お休みだって

そう言う愛。

「なんで?」

問うおれ。

ボキャブラリーが無いわね。『なんで?』を2回続けて言わないで」

うるさい。

更新休む理由(ワケ)を早く教えなさい。

「10月13日は、管理人さんにとって『大事な日』なんだって」

「『大事な日』?」

おれは何気なく、

「結婚記念日だとか?」

しかし即座に愛は、

「管理人さんは独身よ」

「だったら、なんなんだよ。もっと具体化してほしいぜ、『大事な日』だとかボカすんじゃなくて」

「ところで!!!」

うわっビックリした。

急に大声を出しやがって。

大声出すだけではなく両手を大げさに打ち合わせる意味、ある?

「10月13日はスポーツの日よ。スポーツに関わりのあるコトを何かしましょーよ」

おれが座るソファの間近でカーペットに両膝をくっつけている愛。眼を輝かせておれを見てきているからツラくなる。『スポーツに関わりのあるコト』? スポーツを「観る」のか「する」のかどっちだって言うんだ。

輝かしき笑顔の愛は不可解にも少し首を傾げながら、

「バッティングセンター、行かない? あなた遠くまでブッ飛ばせる打力を持ってるんだし、ホームラン級の当たりを連発してストレスもブッ飛ばしましょーよ」

「コトバづかいが汚いぞ、愛ちゃんよ。『ブッ飛ばす』だとか、せっかくの綺麗な見た目に似つかわしくない」

しかし愛ちゃんはおれのツッコミを綺麗にスルーして、

「決まりね。13日は、朝からバッティングセンターよ。都内のバッセンを『ハシゴ』するのも良いわね」

「えー。行くバッセンは1箇所で良いだろー」

愛が俄(にわか)に不機嫌フェイスになり、おれ目がけてカラダを傾けてきたかと思うと、

「もっと乗り気になってよっ!! だらしないわね」

と怒りながら、おれの胸をポコポコと両手で叩いてくる。

痛くはない。

ポコポコしながら、

「できたら、侑(ゆう)も誘いたい。侑にもあなたの長打力を見せてあげてよ、アツマくん」

「侑ちゃん?」

「そーよ。あの娘(こ)、あなたを慕ってるでしょ? あなたがホームラン級の当たりを量産するのを見たら、絶対喜ぶわよ」

「でも、彼女には彼女の都合も」

胸をリズミカルに叩かれながらも、おれは、

「祝日なんだし、新田(にった)くんとマッタリ過ごしたいかもしれないだろ?」

と、やんわり言う。

しかしながら愛のポコポコ叩(だた)きが勢いを増し、

「たしかに新田くんは侑のカレシになったけど、侑だったらゼッタイゼッタイ新田くんよりもバッティングセンターを優先してくれるわよっ!!!」

「そんな絶叫みたいな声出さんでも」

「アツマくんなんにもわかってない」

「そうかねえ」

「そういう態度のままなら、お昼ゴハン作ってあげない」

「そりゃー困る。どーすればいい?」

愛は、おれの問いに答えない。

ポコポコ叩きの手を止めたかと思うと不満げな眼つきを示してくる。

数秒後、いきなりおれの上半身に、飛びつき。

ほみゅっ、と身を委ねてきて、自分の体温を送り届けてくる。

……なんでやねん。