【愛の◯◯】繰り返す深呼吸の先に『告白』がある

 

30回深呼吸をした。勉強机の上のスマートフォンを見つめた。それから手に取った。電話帳を表示させた。緊張感を拭い去るコトはできなかった。

【ほのかちゃん】

大親友を示すひらがな6文字を見て喉がごくん、と鳴った。

 

× × ×

 

通話は夏祭りの話題から始まった。毎年恒例の夏祭りが今月末に某所で開催される。人間関係の輪が広がり続けているので、わたしたちのグループはお祭りにおいて一大勢力を成すようになった。できるだけ他人には迷惑をかけないようにしたいモノだ。

肝心なのは、

「ほのかちゃん、お祭り、行く?」

『行く……つもり、だよ』

すぐに返答してくれたけど、返答は歯切れが悪かった。

歯切れが悪くなる原因は明らかだ。わたしにも責任がある。

良心が締め付けられていくけど、

「わたしは、未定」

ハッキリと伝えておきたかった。このタイミングで伝えておかなければ、さらにややこしいコトになってしまう。

『そっか』

ほのかちゃんは、

『あすかちゃんがしたいようにしたらいいよ』

と言ってくる。

彼女の優しさが針になって、わたしの胸の奥をチクリと刺してくる。

 

× × ×

 

無難なコトバの交わし合いがしばらく続いた。

たとえて言うなら「ぎこちないキャッチボール」。わたしもほのかちゃんも、声音(こわね)が何故か遠慮気味になってしまう。

現在(いま)の関係性の反映めいてくる。大声を出し合っているワケでもないのに、攻撃性を孕(はら)んだコトバをぶつけ合っているワケでもないのに、互いにすり減ってくる。くたびれてくる。

わたしは、腰掛けているベッド上に、いったんスマートフォンを置いた。

スマートフォンからのほのかちゃんの声が途切れる。悪い意味での「小休止」が訪れる。

 

× × ×

 

『ココロの整理整頓をするためには、自分の抱いているキモチを包み隠さず伝えるべきだ』と通話前から思っていた。伝えられたほのかちゃんの反応次第で、先行きが変わる。今日の通話は覚悟の通話だった。スマートフォンを持つ前に30回深呼吸をしたのは、これまでに無く大事なコトをほのかちゃんに伝える覚悟を固めるため。

友情にヒビが入る確率も入らない確率も50%程度だと思う。伸(の)るか反(そ)るか。賭け、みたいなモノ。もしかしたら、22年間の人生で最大級のギャンブルかもしれない。サイコロを振る前の手のひらが濃厚に汗ばんでいる。投げないワケにはいかない。投げない方がよっぽど不誠実だから。投げないという選択肢を選ぶ権利は無い。サイコロの目によって、築き上げてきた「友情」という名の建物の壁に亀裂が走ったとしても。

伝える勇気を出すしか無い。勇気が、相手を傷つける武器になってしまうかもしれない。でも、まずは勇気が大切。傷口の手当ての方法は、伝えた後で考える。無責任であるのは分かっている。それでも。

今ここで吐き出さないといけない。吐き出しの先送りは許されない。先に送って先に延ばすと、『当事者以外』にも迷惑をかけてしまうコトになりかねない。迷惑を撒き散らす女子になるのはイヤだ。悪影響を及ぼす範囲を広げたくない。『当事者だけ』で問題を解決したい。『当事者だけ』でわだかまりを解消したい。そのためには、今、吐き出す必要がある。そのためには、ここで、吐き出す必要がある。

サイコロを投じなきゃ、勇気をぶつけていかなきゃ、最大限に吐き出さなきゃ、決して前には進まない。

 

× × ×

 

スマートフォンを脇に置いて、いろいろなことを考えていたけど、「小休止」はそろそろ終わりにしないといけなかった。

わたしの太ももの左横のスマートフォンを左手で取り上げ、

「ほのかちゃん。これから、マジメで大切な話をするね」

と予告する。

予告すると同時に、大きな冷や汗が背中を伝った。

恐怖心に打ち克(か)つために、太ももの左横にスマートフォンを再度置き、胸のど真ん中を右手で強く押さえ、深呼吸を始めていく。

強く吸って、強く吐く。

その繰り返しが20回以上続いた。

『あすかちゃん? ……あすかちゃん!?』

ほのかちゃんの焦り声が左耳に食い込んでくる。

『どうして何も言わないの、言ってきてくれないの!? マジメで大切な話、するんでしょ!? 変なタイミングで黙られると、わたし困っちゃうよ、どうしたらいいのか分からなくなっちゃうよ』

そうだね。

ごめんね。

『これ以上、焦(じ)らさない』って、約束するから。

焦(じ)らすのをやめた結果、傷つけてしまったら、ゴメンナサイ。

……ケジメをつけるって、こんなにツラいんだね。

なんだか泣けてきちゃったよ。

比喩じゃない。今、何かがこみ上げてきてる。たぶん、水分(すいぶん)。

勇気の代償で、涙が出るコトもあるんだね……。

「……利比古(としひこ)くん、いるでしょ」

やっと声を出すわたしがいる。ここからの流れは、本当に険しい流れ。

『……いるけど』

ほのかちゃんの受け答えに帯びるシリアス。

そのシリアスを受け止めて、

「今は、彼、渋谷に出かけてる。邸(ここ)に帰ってくるのは、夕暮れ時」

僅かの間(ま)の後で彼女は、

『何が言いたいの、いったい。……見えてこないよ』

倍増しになる彼女のシリアスも、受け止めて、呑み込んで、

「きっと近い内に、ほのかちゃん、彼と、デートするんだろうし。その時は、真夏のピークの暑さに、じゅうぶん注意してほしいトコロだけど」

『だからっ!!』

彼女がすぐにコトバを食い込ませてきて、

『はぐらかさないで、お願いだから!! 言いたいコトを、ハッキリわたしに示してきてよっ!!』

と強いコトバも食い込ませてから、

『わたし、もう既に、つらくなりかかってるんだよ……?』

と、湿り気のあるコトバも付け足してくる。

「わかった」

クッキリと言ってから、わたしは、今年に入ってからいちばん大きく息を吸い込んで、

「利比古くんのコトが、気になって仕方が無いの、わたし。理由とか具体例とか省いて、結論を言うと――」

一拍(いっぱく)、置いて、

「――わたしも、好きになっちゃったんだと思う」