【愛の◯◯】あすか先輩の言動が◯◯過ぎて……!!!

 

「いつ来てもこのお邸(やしき)は広くて大きいねえ」

巨大リビングの高い高い天井を見上げながら感嘆するわたし。

「ダイチもさ、ここに来ると再認識するでしょ? あすか先輩が、とってもとっても『お嬢さま』なんだって」

会津(あいづ)ダイチに振り向いてそう問い掛けるわたし。

「『とっても』を2つ付けた理由は何だ」

そんなコトを言って期待に応えてくれないわたしの彼氏。ムカッ。

「それに、戸部(とべ)先輩の『お嬢さま属性』を強調し過ぎるのも如何(いかが)なモノかと思うぞ。彼女、あんまり『お嬢さま』だとか言われたくないのかもしれないし」

いや『お嬢さま属性』ってなんなの。ダイチの造語!?

それと、

「ダイチって、あすか先輩のコト、一貫して『苗字呼び』だよね。『戸部先輩』『戸部先輩』って、まさに他人行儀!!」

わたしの彼氏は勢いに圧(お)されつつも、

「わ、悪いかっ」

と抵抗を見せるが、ここで、あすか先輩がリビングにご登場。

アイスクリームを乗せた丸いお盆を両手で持っているあすか先輩。ダイニング・キッチンから運んできてくれたのだ。

午後2時台。ちょうど、アイスクリームみたいな冷たくて甘いモノが欲しくなってきた時間帯。嬉しい。あすか先輩に感謝。

付け加えると、今のあすか先輩の服、ガーリッシュな中に22歳の実年齢に相応(ふさわ)しき洗練さが感じ取れて、素敵だし尊敬しちゃう。

「ダイチダイチ、あすか先輩がアイスクリーム持ってきてくれたよ!! 『名前呼び』して、ちゃんと『ありがとうございます』って言うんだよ」

ダイチと一緒のソファに並んで座っているわたしは、そう言いながらダイチの左手首を右手で掴む。

……しかし。

ここで、思わぬアクシデント。

何にも無いはずの所であすか先輩が躓(つまず)き、転んでしまいそうになったのである。

思わず息を呑むわたしたち。

でも、あすか先輩は何とか踏みとどまるコトに成功し、お盆の上のアイスクリームも奇跡的に何とも無かった。

ひと安心、とは、言えるけど……。

 

× × ×

 

ドジっ子ぶりがなぜか際立ちかけているあすか先輩に違和感を覚え始めながらも、

「近況報告してもOKですか? もちろん、わたしとダイチの近況報告になるんですけど」

「いいよ」

すぐに許可してくれるあすか先輩。

「同じ大学だから、ソラちゃんと会津くん、一緒に居(い)られる時間が多そうでいいよね」

そう言い足してから、さらに、

「デートだって、週に4回か5回は、してるんじゃない?」

と言ってきた。

なんだか声が少し上(うわ)ずっていて、なんだか目線も過剰に上向(うわむ)き気味なのが気になった。

だけど、とりあえず、

「やだなぁ~。週4回が最高記録ですよぉ~~」

と答えておく。右横のダイチが苦虫を噛み潰したような顔になるのを感知できたので、邸(ここ)を立ち去った後でお説教を繰り広げるコトに決める。

ここで、巨大リビングに、もう1人の人物が登場。

「わあ、利比古(としひこ)さんだあ」

歓声のような声を上げてしまうわたし。羽田利比古(はねだ としひこ)さん。あすか先輩のお兄さんの戸部アツマさんの恋人たる羽田愛(はねだ あい)さんの弟さん。お姉さんの愛さん譲りの美しい外見を誇る都内某大学の3年生だ。

「いきなり両手を合わせて大声を出すだなんて……利比古さんを驚かせるなよ」

早口気味にダメ出しの右横のダイチ。わるいってゆーの!? わたしが、わるいってゆーの!?

「ソラさん、ダイチくん、こんにちは」

利比古さんの爽やか挨拶が炸裂するのを久しぶりに見ちゃった。ショッキングなくらい整ったハンサムフェイスだけではなく、外見以外にもいろんなトコロが爽やかだ。わたしの彼氏が100年かかっても得られるコトの無い爽やかさだけど精々(せいぜい)頑張ってほしい。

「こんにちは!」

利比古さんの爽やかさに笑顔で精一杯応えたいと思いながらわたしは挨拶。

「こんにちは」

利比古さんと比べたら1000倍モブキャラで雑魚キャラなダイチも挨拶。

……ここで、またもや、思わぬアクシデント。

わたしから見て左斜め前のソファに着座していたあすか先輩が、唐突に立ち上がったのだ。

だいぶ勢いある立ち上がり方だったから正直ビビった。しかも、立ち上がった後のあすか先輩、真下の床に向かって視線のレーザービームを発射しちゃっている。

どうしたんですか、あすか先輩!?

「……利比古くん」

彼女は、しおしおと、

「あっちに、行っててよ」

利比古さんは少し戸惑って、

「あっちって、どっちでしょーか。具体的な場所を言ってくれた方が……」

「じゃあ、言うから」

とあすか先輩。

「……ハイ」

と利比古さん。

「ダイニング・キッチンに、お願い。キンキンに冷えたアイスクリーム、冷蔵庫の中にあるから、食べていいよ。ハー◯ンダッ◯の倍の値段したみたいだから、きっと美味しいよ」

あすか先輩は、そう言った。

「……承知しました。」

キョトーンとなりながら、あすか先輩との『つきあい』の相当長い好青年の利比古さんは、足を動かし始めていくのだった。

 

× × ×

 

『ゴメンね、おかしな場面、見せちゃって。ビックリしたよね。責任は、全部わたしの自己責任』

あすか先輩はそう言って謝った。でも、謝りコトバの中にも、違和感を覚えてしまう点がある。

『わたしの自己責任』だなんて、間違った日本語だとしか思えない。『わたしの責任』って言えばいいのに。

あすか先輩のコトは、日本語の達人だって思っている。『高校生作文オリンピック』の『銀メダリスト』なのが、何よりの証明だ。それなのに、『わたしの自己責任』なんて間違った日本語を言っちゃうだなんて……!! あすか先輩があすか先輩じゃないどころのハナシじゃないよ!?

 

あすか先輩は、目線を上手く上げられないまま、長めのスカートの両膝辺りをキツめに掴み続けていたが、不意に、

「わたし、髪洗ってこよっかなぁ」

と声を出した。

深く驚いてしまうわたしがいた。

髪を洗う、と彼女は言った、確かに言った。髪を洗う。洗髪(せんぱつ)。シャッキリしたいキモチは分からないでもないけど、こんなタイミングで……!?

「せっせんぱいっ、あすかせんぱいっ」

「なあに、ソラちゃん」

「髪を洗うってコトは、シャワールームかバスルーム的なトコロに……」

「うん。そーだね。たぶん、シャワールームに行く。服脱いで、シャンプーとかコンディショナーとかいろいろ使って髪洗って、乾かしながら新しい服着て、それから戻ってくると思う。だから、とっても時間がかかるし、とっても迷惑をかける。わたしって、ホントーに……」

「せせせせせんぱいっ!!! ダイジョーブですか!? わたし、たぶん、ダイジョーブじゃないと思うんですけど!??!」

「たはっ☆」

ええっ!?!?

『たはっ☆』って……。リアクションが、尋常じゃ無さ過ぎない?!?!

お願いだから、いつものあすか先輩、戻ってきて……!!!