【愛の◯◯】アブナイけど尊敬せずにはいられない幹事長の女性(ヒト)

 

7時55分。朝の髪の手入れをしている。長髪だから手入れに時間がかかる。受け入れないといけない。

髪の手入れが「折り返し地点」に来たところで一旦立ち上がる。半分しか開いていなかったカーテンを全開にして、朝の光を室内に降り注がせる。ベッド際の窓から降り注がせたから、ベッドのお布団や枕は短時間で暖まるコトだろう。

ノートPCのブラウザで「radiko(ラジコ)」にアクセスし、某FMラジオ局の某ワイド番組をBGMに、髪の手入れを再開する。

『やっぱり、TO◯YOのFMな局よりも洗練されてるよね……』と若干余計な比較をココロの中でしながら、ヘアブラシをそっと置く。もう数分だけ梳(と)かした方が良かったかもしれない。まぁいいや。

 

わたくし敦賀由貴子(つるが ゆきこ)はマンションの5階部屋(べや)でひとり暮らしをしている。在学中の大学キャンパスまでは遠くない。というか、徒歩であっても過度に足を疲れさせるコトも無く辿り着ける。自転車だとさらに早く辿り着けるのは言うまでも無い。

大学キャンパスは山手線の内側。ここで、『きみはブルジョワなのか!? 都心部のマンションが賃貸であってもどんだけ値上がりしてると思ってんだ』というツッコミが来ると思われる。大阪府の実家が「太い」のは否定できない。親が資産家だとか大企業経営者だとかいうワケではないけど、しっかりした家賃のマンションに住まわせてくれて、学費も出してくれている事実が在(あ)る。

「ま、人生いろいろだし、『境遇』だっていろいろでしょ」

曖昧にボカしたコトバを虚空に向けて呟いてしまう。

そして、

「試験受けなきゃいろいろ面倒くさいコトになるし、そろそろ出よっと」

と独(ひと)りごち、靴を履くためにワンルームの部屋の出入り口ドアへと歩いていく。

 

× × ×

 

ちなみに、わたしは社会学部である。社会「科」学部ではない。1文字付け足しただけで厄介な事態になってしまう。漢字って難儀だね。

 

前期末の試験を無事受け終えた。教授(センセイ)が、『単位に不安があるヒトは私のトコに来て~?』と、ダメ学生に救済措置を施そうとしている。優しい……。

救済措置などもちろん不要なわたしは速やかに教場を出る。講義棟をやや早足で抜け出し、本部キャンパスを突っ切って学生会館を目指していく。

 

× × ×

 

現時刻10時55分。所属している『漫研ときどきソフトボールの会』のサークル部屋。

入り口から見て左サイドの席にわたしはついている。わたしから見て左斜め前の席に幹事長の羽田愛(はねだ あい)さんが居(お)られる。

愛(あい)さんは大学生活5年目の夏を迎えている。しかし「留年」という躓(つまづ)きすらも、彼女の魅力の良(い)いアクセントになっているのである。

 

愛さんは、わたしがこれまで見てきた女性の中でいちばん美人だ。

これまで出会った女性(ヒト)だけではなく、WEBやテレビや雑誌その他で眼にしてきた女性(ヒト)を含めても、羽田愛さんが美人ランキングNo.1だと思う。

オンナ友達に愛さんの画像を見せたら、『ウソでしょ……!? こんな美人女子大学生、地球上に存在してたの』とか『信じられない信じられない、なんでこんな超絶美女がメディア露出してないわけ!?』とか、瞬時に言われたりする。

もちろんのコト、ルックスだけが魅力なワケでは無い。

スポーツ万能・音楽万能・お料理万能。

「スポーツ万能」の具体例は、わたしたちのサークル活動の大きな柱であるソフトボール。国際大会でもエースを担(にな)えるような豪速球を投げ、国際大会でも主軸を担えるような打撃力でホームランを連発する。おまけに、足もとっても速くて好走塁をたびたび見せる。

特に、パワーヒッターなのが(良い意味で)ワケが分かんない。彼女は身長160.5センチで、身長から体重を引いた数値が110以上……。華奢なカラダがボールをフェンスの向こうまでカッ飛(と)ばす。まるで漫画。いや、まさに(?)漫画。

「音楽万能」の具体例は、ピアノとカラオケ。とある邸宅での彼女のバースデーパーティーに招待された時、ココロが震えて涙までこみ上げてくるようなピアノ演奏を披露してくれた。『いわゆる「ストリートピアノ」を彼女が弾いた途端に、歩行者天国に居た人たちのほとんどが彼女の周りに集まってきた』という情報を得たコトがある。都市伝説なワケが無い……!

そして、カラオケでの歌唱力。サークルメンバーでカラオケに行く時がある。男子メンバーが本来女性ボーカルのアニメソングを歌うコトがしばしばでイラッと来ちゃうのだが、愛さんの超絶歌唱力を耳にした途端に機嫌が立ち直っていくんである。何を歌わせても上手い。邦楽でも洋楽でも。本来男性ボーカルであっても無問題(モウマンタイ)。ピアノの超絶技巧同様に、ココロが震えて涙がこみ上げる寸前になる。当然ながら、採点結果は全てが『98.5』以上だ。

最後に「お料理万能」にも言及したかったんだけど、残念ながら、記述の文字数が長くなり過ぎると『クドい』だろうという理由で、また今度。

 

× × ×

 

女子大学生が100人いたら5、6人しか読まないような某・青年漫画の単行本を閉じた。腕時計を見る。正午が接近中。男子メンバーに部屋に来てほしくない。もうちょっと、羽田愛さんとの『ふたりだけの空間』を味わっていたい。

わたしは、どこからともなく、ソフトボールの成績表の紙を取り出した。ホッチキスで綴じられた紙をぺらっとめくる。

防御率順に投手成績が並んでいた。愛さんがダントツで防御率トップなので彼女の名前がいちばん上に来る。

わたしが注目したのは防御率第3位の新山(しんざん)ブンゴ先輩の成績だった。

顔を上げて、

「愛さん。ご存知ですか?? ブンゴ先輩って、エースピッチャーを狙って愛さんと張り合ってるクセに、与四死球(よししきゅう)の数が、よろしくないんですよ」

壮絶なまでに美女な愛さんはさっきまで左手で頬杖しながら少しアンニュイにボトルコーヒーを飲んでいたけど、頬杖を解(と)いてわたしに顔を向けてきてくれて、

「コントロール悪いわよねぇ、彼。NPBの投手で喩(たと)えたりするのは、果てしなくリスクが高いからやめとくけど」

非常に彼女らしい言い回しだ。愛さんは、こうじゃないと。

『ノッてきた』わたしは、

「少し前、『ブンゴ先輩が危険球レベルのビーンボール投げてきたけど、バッターボックスの愛さんは華麗に回避した』ってコト、ありましたよね!?」

と、姿勢を前のめりに。

「あったあった。でも、わたしは当たらないわよ。当たらない自信があるの。危険球直撃でわたしがケガしちゃったりしたら、ブンゴくんノイローゼになって、大学に通えなくなるかもしれないでしょ?」

おおー。

「愛さんは、後輩男子の未来(ミライ)のコトまで、考えてあげてるんですね!!」

前のめり姿勢持続状態で賞賛のわたし。やっぱり、わたしは愛さんがココロの底から好きだ。

尊敬を絶やさずに、前のめり状態を一旦やめて、今度は打率順に並んだ打者成績に眼を留める。

当然ながら愛さんがダントツで打率トップなので彼女の名前がいちばん上に来る。

ブンゴ先輩は思ったより打率が低い。彼の名誉のために順位は伏せておくけど、『出身高校(@京都府)ではいつも3番バッターか4番バッターだった』というのは本当だったんだろうか??

『詐称するのならいっそのコト、もっと堂々と……!』と思いつつ、ブンゴ先輩の打者成績を仔細に見てみたら、

「あっ。ブンゴ先輩って、『二塁打』だけは、やけに多い。三塁打は少ないし、単打の数も平凡なのに」

わたしの発した『気付き』に愛さんがすぐに反応して、

「――『立浪(たつなみ)タイプ』?」

んーっとっ、

「立浪って、立浪さんの、和義(かずよし)さんですよね」

「そ。中日の監督として伝説を創り上げたヒト」

愛さんの口ぶりが危険水域に迫っている、気がする、のだが、

「いまだに、NPB通算二塁打記録のトップに君臨してて。でも、坂本勇人が追い抜いて、『500の大台』を超えそうよね」

「『500の大台』?」

「立浪の通算二塁打数は487なのよ。出典はNPB公式サイト」

「うわぁ、すごいですね、どうして1の位(くらい)まで暗記できるんですか?」

暗記できる理由を説明する代わりに、愛さんは、

「例えば、石井琢朗の通算二塁打数は373で、歴代で27位タイに過ぎないんだけど。野球人(やきゅうじん)として偉いのは、どっちかな~~ってハナシよ」

と、公共の電波ではやっちゃダメ以前の問題の発言を繰り出してくる。

……忘れちゃいけないよね。

愛さん、横浜DeNAベイスターズひとすじなんだよね……。