【愛の◯◯】メンドーな女子であるコトよ

 

「お待ちどうさまでした! タカムラかなえ、ただいま参上しましたよん! 金曜日ですねえ、何と言っても金曜日ですねえ!! 退屈な授業をあと少しだけやり過ごせば、週末!!

 やべっ、口が滑って問題発言が混じっちゃった。

 まぁ、いっか。いいよね?

 政治家の失言とはワケが違うんだからさ。

 ……えー、気を取り直しまして、日本中の高校生に向けてタイトルコール。

 ランチタイムぅ、メガミックスぅ~~~。

 
 夏だね! 本格的に夏だね!!

 7月になると、湘南の海も盛り上がってくるよね!! わたしは湘南に行く予定なんか全然無いけど。

 ほら、結構遠いじゃん? 都心部から、藤沢とか茅ヶ崎とか平塚って。高校生には交通費がキツいんだよ。

 スゴいよね、夏休みにここら辺から茅ヶ崎や平塚までデートしに行く高校生カップルって。いったいどうやって資金を作るんだろう。やっぱしバイトかな?

 わたし、人生でまだ1回もバイトしたコト無いや。

 でも、そろそろ始めるべきなのかな。高校生の内に1回は、バイト経験あった方がいいのかな。

 こういうコトを考えたりするのは――『いつまでも、扶養家族の思春期少女じゃいられない!!』って想いが、時折強まるから。

 生徒の皆さんは、いつ扶養家族を卒業したいですか??

 

 ――オープニングナンバー、行ってみよっか。

 本日のオープニングナンバーは、ブルーノ・マーズの……」

 

× × ×

 

タカムラかなえのフリートークに混ざる『毒』が増えた。

退屈な授業云々(うんぬん)とか、扶養家族云々とか。

中庭でサンドイッチを頬張りながら、

『喋りが尖(とが)り過ぎだろ……。放課後、懲らしめてやるべきか』

と苛立ち混じりに思うおれがいた。

発言するコトがなんでもかんでも許されるワケではない。

桐原高校内限定の校内放送とはいえ、公(おおやけ)に向けて喋っているという意識をもっと持つべきだ。

「節度」というモノをタカムラかなえに植え付けたいのである。

 

× × ×

 

「おれよりもタカムラの方がケタ違いにフマジメだよな」

放課後の【第2放送室】。思い切って言ってみた。

入り口横のオーディオ機器が集まっている場所付近に立っているタカムラ。向かい合ってはいるものの、壁際の木造りの長椅子に座っているおれとはかなり距離がある。

腕組みを始めておれを見据えてくるタカムラは、

「いい度胸だねえ、そんなコトを直接言ってくるなんて」

ドヤァッ、とした笑顔になっているタカムラに若干圧(お)され気味になるも、

「『直接』じゃなきゃ、卑怯だろうが。おまえの居ないところでおまえの悪口言うとか、それこそフマジメの中のフマジメになっちまうし」

「ふーーーん」

タカムラのドヤァッ、とした笑顔にドヤァッ、とした声音(こわね)が加わる。

タカムラがあまりにもドヤァッ、としているのでムカァッ、とした感情がおれの中に産まれてくる。

しかし、どうしようもない口喧嘩(くちゲンカ)になっていってしまうのは泥沼だから避けたくて、おれは、

「おまえ言ってたよな、今日、ドキュメンタリー番組の総仕上げをするって」

と言いつつ腰を浮かせ、

「『総仕上げ』とは具体的になんなのかは、聞かされてないが」

と、タカムラかなえを見据え返す。

「トヨサキくんはセッカチだねぇ」

るせぇ。

「おれはセッカチではない。おまえの方が、よっぽど……」

「コンキョがな~~い」

黙っておれはスタジオ方向に顔を逸らす。黙っておれはスタジオ入り口ドアのノブに手を伸ばす。

 

× × ×

 

液晶モニターに映し出された番組映像を凝視しつつ、メモパッドに気になった点を書き留めていく。

映像を一時停止させて、メモパッドを机上に置き、タカムラかなえ方面に振り向く。

斜め後方のタカムラは机に腰をくっつけて立っている。

椅子に着座のおれは視線を上げ、上げた視線をタカムラの眼にブチ当てて、

「なあ」

と声を出し、

「おまえ、マスダ先輩との仲、少しは修復できたんか?」

と問う。

不味(まず)い料理を食ってしまった直後のような表情にタカムラの表情が変貌した。

 

説明しよう。

マスダ訓史(のりふみ)先輩は、文芸部の3年生だ。

おれとタカムラの2年生コンビと絡む場面が最近増えているマスダ先輩。キッカケは、昨年度の3学期に「読書」をテーマにした番組を作ったコトだった。どういう流れで「絡み」が増えたのかは文字数の都合で残念ながら省略するが、おれがとても気になっているのは、マスダ先輩とタカムラの間(あいだ)に不穏な空気が流れ続けているコトだ。

どうやら、某・お台場のテレビ局の不祥事が明るみになった直後、マスダ先輩がタカムラに向かって「テレビ批判」を直撃させたのが、ギスギスとした関係になってしまった原因であるらしい。

おれは陰ながらマスダ先輩を尊敬しているので、彼のテレビに対する批判的な眼にも敬意を払っている。今の時代、テレビに厳しい眼を向けない方が少数派だろう。

しかしながら、タカムラかなえは敬意を払おうとしないのである。払うつもりが一切無いようなのである。徹底的にテレビの側(がわ)に立って、『テレビは悪いコトばっかりしてきたワケじゃないんですよ!!』みたいに、マスダ先輩に対する抵抗を続行している状態だ。

おれは恐れている。……そのうち、『フジテレビは過去にこういう良(い)いコトをして、それが社会にこういう風に影響を与えて……』みたいな「反撃」を、マスダ先輩に対してぶつけてしまうんでは無かろうか。

 

眼の前のタカムラの顔面がハイスピードで険しくなっていっている。

もし、『カルシウム不足か?』みたいなコトを言ってしまったら、グーパンチを頭部に食らわされてしまうかもしれない。デンジャラスだ、デンジャラスな状況だ。

だが、デンジャラスな状況を作ってしまったおれに後悔は無い。金曜日だ。週の「シメ」だ。言うべきだと思ったコトはキチンと言っておきたい。言うべきコトを言わずに来週の月曜日に持ち越すのは避けたい。

マスダ先輩とタカムラは、反発し合わない方が、絶対に良(い)いのだ。

仲が悪いより仲が良(い)い方が良(い)いに決まっている。

先輩・後輩の間柄であっても、男子・女子の間柄であっても、その「真理」は変わらない。

タカムラかなえには、その「真理」が分からない。

メンドーな女子であるコトよ……。