ちょっと高級な食品スーパーのかなり高級なソーセージを奮発して買った。コンロにフライパンを置き、薄く油をひき、点火してフライパンを温め、高級ソーセージを乗っけてみる。期待通りのジュージューという音が響いてくる。とっても美味しそうに焼け始めている。高級ソーセージのお陰で、土曜日の朝を元気に始められる。
原則、朝食は自分で作るようにしている。大学時代の終盤から、朝食を自炊する習慣が始まった。『何がキッカケで?』と知り合いに訊かれたコトもあるけど、社会人としての事情で動機とか理由とかは割愛する。
エプロンだって装着している。エプロンを用意するのみならず、慣れない手つきではあるけれど、エプロンに独自の刺繍(ししゅう)を施したりもしている。中学・高校・大学が同じだった後輩のアカ子さんに裁縫(さいほう)を教わっている最中なのだ。わたしの知人の中ではおそらく、彼女がいちばん手先が器用だと思う。
わたしとアカ子さんが通っていた大学は某・港区の某・有名私立大学ではあるが、ひとり立(だ)ちした社会人としての自覚から、固有名は伏せておくコトにする。
× × ×
「あと、わたしの住まいのマンションの所在地も、伏せておくのが絶対にベターだな……」
そんなヒトリゴトを呟きながら、食べ終えて食器を片(かた)し終えたわたしは朝の日射し溢(あふ)れる窓際に椅子を移して座り、先月の卒業式の日に部活の子たちと撮った記念写真を見つめ始める。
この写真に写っているのは、
・放送部顧問であるわたくし小泉小陽(こいずみ こはる)
・尾石素子(おいし もとこ)さん(卒業する3年生)
・中嶋小麦(なかじま こむぎ)さん(卒業する3年生)
・福良万都(ふくら まつ)さん(卒業する3年生)
・鈴木卯月(すずき うづき)さん(3年生を送る2年生代表)
の5人だった。
いずれも女子である。放送部の構成員は顧問含め全員女子なのだ。
記念写真を撮った卒業式の日のコトで思い出すコト2つ。
その1。中嶋小麦さんが最後まで笑顔を絶やさなかったコト。感極まって泣くコトも無く、終始元気で明るくて、まさに小麦さんらしい高校生活の締めくくり方だった。去年の晩秋(ばんしゅう)の頃から学業のストレスで荒れてしまっていた時期もあったけど、吹っ切れて立ち直れたみたいで、小麦さんとは対照的にわたしには感極まるモノがこみ上げて来ていた。
その2。福良万都さんが尾石素子さんにからかわれていたコト。どんなコトでからかわれていたのかというと、ズバリ男の子のコトでからかわれていたのである。福良さんが卒業済みだから情報開示しちゃうんだけど、同級生の国見(くにみ)くんと『非常に興味深いカンケイ』になったそうで。『あんたも隅(スミ)に置けないね、万都』と尾石さんが言った途端、『隅に置けないって何よ素子!? 日本語は正しく運用して!?』と慌てふためく福良さんがいて、彼女としては例外的な赤面ぶりが非常に可愛かった。
× × ×
しみじみとわたしは写真を見ながらも、
『福良さんと国見くんが『非常に興味深いカンケイ』になったけど、わたしと大川くんの『非常に興味深いカンケイ』は、見破られたくないな……』
と胸の中で呟いていた。
大川くんとの出逢いは教育実習の時だった。それから、右肩上がりのグラフのごとくに『カンケイ』は進展していった。現在、大川くんはわたしにとってカタカナ7文字的な存在なのである。直訳(?)するなら「男子のトモダチ」なんだけど、お察しかもしれないが「トモダチ」止まりの存在では到底あり得なくなっている。
さて非常に残念なコトに、本日は元々は大川くんと街に繰り出してショッピングなどなどする予定だったのだが、大川くんの方の職場的な都合で急遽中止となってしまったのだった。
どうしよっかなあ。昼ごはんまでの時間の過ごし方、なーんにも考えてないよ。
プランA。高校教師らしく、教師としての『宿題』をこなしていく。
プランB。自分の趣味に走り、液晶テレビの外付けハードディスク内の録画番組を片っ端から消化していく。
プランAは「やるべきコト」。プランBは「やりたいコト」。
天秤にかけてみようとする、けども、脳内の天秤はただちに、プランBの方に傾いた。
すなわち、「やりたいコト」を優先させるコトにしたのである。
「やるべきコト」を後回しにするなんて、社会人として教師として不適格……このようなご意見が呈示されるのは避けられないし、至極真っ当なご意見ではある。
だけど、本当に「不適格」なんだろうか?
× × ×
「『やるべきコト』と『やりたいコト』の二分法(にぶんほう)じゃ、世の中のコトは分かんないんじゃないのかな」
苦笑いしつつ、テレビのリモコンを持ちつつ、そんなヒトリゴトを吐いてしまう、教師生活3年目のオンナがいた。
『浅はかなモノの見方だ』というご批判は、甘んじて受け入れる。