皆さんこんにちは! あたし、小松まなみっていいます! 都内某私立大学の新2年生、『漫研ときどきソフトボールの会』っていう楽しいサークルに入っていて、大好きなコトはカラダを動かすコト!!
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4月が始まったばかりなのに曇天(どんてん)でちょっと残念。新入生歓迎ウィークなんだから、いい天気が続いてほしかったんだけどな。
ま、嘆いても仕方無いか。
新歓ウィーク4日目だ。腕時計を見たら午後1時半を過ぎていた。腕時計から視線を外し、本部キャンパス新歓ブースの椅子に腰掛けて新入生の子に応対している2人の背中を凝視する。
応対しているのは古性(こしょう)シュウジ先輩と新山(しんざん)ブンゴ先輩。新3年生男子の2人だ。
2人の先輩男子の背中から片時も眼が離せない。後ろに立っているあたしが事実上の「監視役」を務めているからだ。
昨日も酷かったらしい。同期の敦賀由貴子(つるが ゆきこ)ちゃんが非常に苦々しい顔で報告をした。ちょうどサークル部屋には女子オンリーだったから、幹事長であらせられる羽田愛さんが、哀しい気分に浸りかけている由貴子ちゃんのカラダをそっと抱いてあげていた。
ほんとにほんとに、このサークルの男子と来たら……!!
変な行為をやらかさないか徹底的に見張る。幹事長の愛さんから「通達」が来る前にあたしは既にそう決心していたのだった。
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いろいろなコトがあったが、いろいろなコトがあったからなのか、あっという間に時刻は午後3時を過ぎていた。
シュウジ先輩とブンゴ先輩が同じタイミングでブースの椅子から立ち上がる。学生会館に戻ろうと本部キャンパスの出入り口の方面を向く。「くたびれ」が横顔にみなぎっているのをあたしは見逃さなかった。
まず、
「ブンゴ先輩はもうちょっと持久力あるって思ってたのに。あたしガッカリです。最後の方は新入生の子へのサークル説明も投げやりだったし」
と元・野球少年のくせにだらしがない男子学生をたしなめる。
ブンゴ先輩のお顔が一気に半泣き状態になっていった。
半泣きブンゴ先輩をたじろぐコトなく直視するあたし。
次はシュウジ先輩の番、ではあったんだけど、過激な罵詈雑言(ばりぞうごん)が口から飛び出てしまいそうだったから、大変不本意ではあるがシカトするだけに留めてあげるコトにした。
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結局一番眼に焼き付いたのはブンゴ先輩の半泣き顔。こんなコトでいいんだろうか??
サークルの未来の鍵を握るのは3年男子であるブンゴ先輩やシュウジ先輩だというのに……と思いながら横断歩道を渡り、文学部キャンパスに着実に近付いていく。
文学部キャンパスに足を踏み入れてから赴いたのは「約束の場所」。場所の詳細を明かすコトはできないけど、とにかくあたしはこの場所に留まって「約束の時刻」を待つだけ。
立ち続ける我慢強さには自信があるから、待ち続けるのが苦痛にはならない。
「約束の時刻」の1分前。あたし(165センチ)より少し背が高いだけの頼りなげな男子が「約束の場所」に姿を現した。
河端海也(かわばた かいや)。あたしの出身高校で1個下だった男子だ。
海也は大変めでたいことに現役で第一文学部に合格。学部とキャンパスこそ違うけど、あたしにとって同じ大学の後輩にもなったというワケ。
ということはもちろん、海也にとってあたしは同じ大学の先輩になったというコトである。
なった、というか、なってくれた、というか。
……微妙なニュアンスの違いは『また今度』として、あたしは海也の顔面に早速眼を凝らし、
「海也。すいてるよね、おなか。まだ夕暮れ時にもなってないけど、高校時代のあんた、すぐに腹ペコになるキャラだったし」
海也は狼狽(うろた)え加減に、
「なんですか、『腹ペコになるキャラ』だとか」
動じず、
「なんだっていいでしょーに」
とあたしは躱(かわ)して、
「行っちゃおーよ、早いとこ。あたし、あんたに早くゴハンをおごりたくてウズウズしちゃってるんだ」
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お料理が運ばれてくるのを待っている。海也はとっても我慢強くて、待ち遠しいような素振りも見せずにあたしと向き合い続けてくれている。
『うちのサークルのポンコツ男子とは……大違いだ』
海也に聞き取れないレベルの声の小ささで思わず呟いてしまうあたしがいる。
あたしが呟いたすぐ後に、
「まなみセンパイは、教育学部の理科専攻ですよね?」
と海也が確認をしてきた。
「そだよ。そーだけど??」
あたしが訊き返したら、
「完全文系のオレには、とても真似できないです……!」
と言ってくれた。
嬉しい。
半端じゃなく嬉しい。
欲を言えば、目線をそんなに大げさに下降させないでほしいけどね。