【愛の◯◯】危機感とか自覚とか全部消失して◯◯

 

「ムラサキさん!」

「なぁに、小百合(さゆり)さん」

「卒業式まであとわずかですよね。ご卒業おめでとうございます」

「うわぁ、うれしい~~」

「え、えっ、なんですか、その大げさリアクションは」

「だってうれしいんだもん」

「……はぁ」

「あれっ、どうしてこのタイミングで溜め息?」

「あのですね」

「うん」

「『ご卒業おめでとうございます』と言ったのは、実のところ、『社交辞令』なんです」

「うそーん」

「……。本音を言わせてもらうと、私、ムラサキさんの将来がとっても心配なんですよっ」

「心配? 小百合さんが? きみはまだ若いんだから、ぼくの心配なんかしなくたっていいのに」

「します。」

「どーしてかな」

「む、ムラサキさん、『自覚』って日本語、知ってますか……? 自分が置かれてる状況、『自覚』できてないんじゃないですか……?」

「ぼくが就職浪人するコト?」

「そう!! そこですっ!!」

「まぁ、厳しい年になるよね」

「ムラサキさんは最近何を頑張ってるんですか!? 何を努力してるんですか!?」

「んー」

「私、ちゃんと答えてほしいんですけど」

「……」

「だっ黙らないで。不可解な間(ま)を作らないで」

「……小室ファミリー

「はぃ!?」

小室ファミリーのプレイリストを、10時間かけて作成した」

 

× × ×

 

「小百合さ~ん。少しはこっちを向いてくれよ~~」

「イヤです。ムラサキさんが『小室ファミリー』とか言い放ったのがいけないんですからね?」

「まーね」

「大学卒業間際の男子とは思えないボーイソプラノで、チャラチャラした発言を、よく

もこんなに……!」

ボーイソプラノだったら、ダメなの?」

「ろ、論点をずらす気ですかっ」

「持って生まれたモノは変えられないよね。ぼくが声変わりしないままオトナになったコト、強調し過ぎるのもどうなのかな?」

「……分かりました。分かりましたからっ。さっきの罵倒は取り消しますからっ」

「優しいね」

「ですが……」

「んんっ??」

「プレイリスト作りに10時間も没頭できるのなら、いっそのこと、小室ファミリーへの就職を目指したらいいんじゃないでしょーか!?

「――それは夢があるね」

「ちょっちょっと、どーゆー受け止め方してるのっ。冗談は冗談だと見抜いてほしいんだけどっ」

「タメ口になっちゃった。――タメ口の小百合さんも、夢があるね」

「!?!?」