【愛の◯◯】今夜は敢えてあすかちゃんに◯◯

 

「ハルくんから手紙がまた来たの」

あすかちゃんにそう告げたら、あすかちゃんは歓(よろこ)びの顔になって、

「うわあ~~、良かったですね!!」

「良かったわ」

勉強机を背にして椅子に座っているわたしは、カーペットの小さめのテーブル前に腰を下ろしているあすかちゃんをまっすぐに見て、

「送られてきたのは今日の午前だった。愛ちゃんと蜜柑と3人で歓び合ったわ」

向かいのあすかちゃんは、

「嬉しさも歓びも桁(ケタ)違いですよね。地球の裏側から送られてくるんですから」

「そうね。これ以上なく距離が離れてるんだけれど、国際郵便の封筒を見た途端に、これ以上なく距離が近付いてきたような気分になれたわ」

あすかちゃんはニコニコと、

「で、お手紙の内容は?」

 

ハルくんが手紙に書いたコトを余さず説明したら、1時間以上経過していた。時刻は夜8時半を過ぎていた。あすかちゃんはずっとニコニコと聴いてくれていたけれど、喋り過ぎたから反省してしまう。

「ごめんなさいね。嬉し過ぎて勢い余って喋り過ぎちゃったわ」

謝ったら、彼女から即座に、

「喉を潤(うるお)すのはどーですか」

と言われ、

「たとえば、アルコールで潤すとか」

と『からかい』の少し混じった声で言われてしまう。

……もうっ。

「あすかちゃん、わたしはね、今日はもうお酒は飲まないって決めてたのよ?」

やや前のめりになって彼女に言うのだが、

「あっ」

と、動じるコトの無い彼女が、

「今のアカ子さん、2月に入ってから一番かわいい」

「え……」

「わたし個人の意見ですけど」

前のめりレベルが2段階上がってしまい、

「……どうしてそう思ったのかしら。理由を詳しく聞かせてほしいわ」

「アカ子さーん」

「き、聞かせてよ」

「そんなに前のめりになるのなら、椅子から降りて、わたしの隣に来ませんかー?」

「ちょ、ちょっとっ、あすかちゃん!!」

「隣に来てくれたら、詳しい理由を言ってあげるんだけどなー」

そんなっ。

過去1年間で一番、あすかちゃんがイジワルに……!!

 

× × ×

 

時刻は夜10時を過ぎている。

わたしもあすかちゃんも座る場所をベッドに移していた。

からかわれたが故(ゆえ)の火照(ほて)りも何とか収まり、右隣のあすかちゃんとお喋りしながら無難に過ごしている。

とりとめのない話をしながらも、わたしは機をうかがっていた。右隣で寄り添っている彼女に是非とも訊いてみたいコトがあったのだ。どちらかが眠たくなる前に切り込んでいかないといけない。

ハマスタは何度か行ってるんですけど、おねーさんと2人だけで行ったのはたぶん1回だけ。ですから、おねーさんとハマスタデートできる日のコトを思うと、興奮してなかなか寝つけない時もあって……」

愛ちゃんがチケットを取ってくれた。あすかちゃんの就職活動の合間をぬって横浜スタジアムに試合を観に行く。『疑似姉妹(ぎじしまい)』の漢字4文字が相応しい2人。

特にあすかちゃんが愛ちゃんをとってもとっても慕っているから、来たるべき『ハマスタデート』について話すとなるとテンションがどこまでも上がっていく。

「睡眠不足はお肌に悪いわよ」

軽ーくわたしは言い、

「安眠できないようなテンションになっちゃうと困るのは、あなたでしょ?」

と優しく柔らかく忠告する。

あすかちゃんの勢いが鈍る。

右のほっぺたを右手の指でポリポリ掻きつつ、

「今夜のアカ子さん、なんだか厳しいですね」

「そーかしら。わたしはいつも通りあなたに接してるだけよ?」

「せっ、説得力が」

ジトーーッ、と視線を彼女のお顔に寄せ、

「説得力が、なあに?」

と、攻めていく。

いったんは何か言いたげだったあすかちゃんだったが、コトバを呑み込むような戸惑いの仕草を見せ、それから俯(うつむ)き気味になってしまった。

攻め続けるべきタイミングだと思ったから、

「ごめんなさいね。あなたを追い込むみたいになっちゃったわよね」

と謝り、そしてそれから、

「こんな悪いわたしを見たら、利比古くん、怒っちゃうかもしれないわね」

と、遂(つい)に遂に、利比古くんの名前を出すコトを成し遂(と)げる。

「とととと利比古くんッ!?!? な、な、なんで……脈絡もまったく無く……利比古くんの名前を」

驚きが巨大過ぎて大きく仰(の)け反(ぞ)ってしまうあすかちゃんを、横目で微笑ましく見る。

それからそれから、

「わたしは最近の彼の様子が気になってたのよ」

と強引に言い、

「あっちのお邸(やしき)であなたと彼は一緒に暮らしてるんだから……いろいろと教えてくれるのを期待しながら、あなたの訪問を待っていたの」

と畳み掛け、

「どうやらアルバイトを始めたみたいだけれど、『効果』は出てきてるのかしら?」

とさらに畳み掛ける。

「コウカ!? コウカって、なに!? わたしわからない、『コウカ』を漢字で書くとどんな表記になるのか――」

「落ち着いてあすかちゃん」

キリリとピシャリと言う。

そして、わたしの右手で彼女の左手を包み込んであげる。手の柔らかさを味わいつつ、わたしの熱を彼女の中に染み渡らせるように努める。

「言い方を変えるわね」

1つ年上の女子の余裕を込めた声音(こわね)で、

「アルバイトを初めたコトで、彼に何が齎(もたら)されるのか。その結果、どのように彼が『オトナの階段』を上(のぼ)り詰めていくのか……」

落ち着きを未(いま)だ取り戻せないあすかちゃんは、

「まっますます難しいですっ。難解過ぎます、アカ子さんの言ってるコトが。……『オトナの階段』?? いったいどーゆー比喩(ひゆ)ですか、『オトナの階段』って??」

混乱。その漢字2文字に尽きる。

結局安眠しづらくさせてしまった。それは本当に悪いと思う。

だけれど。

わたしの小悪魔的な部分が膨張(ぼうちょう)を続けていて……消灯時刻をどこまでも延ばしたいキモチが満ち溢(あふ)れていく。