【愛の◯◯】夜に語る侑ちゃん

 

「黒髪ストレートの娘(こ)が2人眼の前にいると眩(まぶ)しいわね」

夕暮れ時。リビング。向かい合うわたしと大井町侑(おおいまち ゆう)ちゃんを横から眺めていた愛ちゃんがこう言った。

さらに、愛ちゃんは、

「妬(や)けちゃうぐらいに眩しいかも」

と言い足してキモチを表明。

「何言うのよ、愛」

わたしの向かい側に座る侑ちゃんが、

「『妬けちゃうぐらいに眩しい』ってコトバ、そっくりそのままあなたにお返しするわ」

と微笑を浮かべながら愛ちゃんに向かって言う。

『ふぅん……』という呟(つぶや)きが漏れてきそうな表情で愛ちゃんは、

「メイド服装備状態のわたしがいつもの何倍も眩しいみたいね」

と応戦。

「そーよ」

素直にキモチを認める侑ちゃんは、

「画像を撮(と)ってアツマさんに送信したいわ。アツマさんはマンションに取り残されて孤独なんだもの」

と愛ちゃんの彼氏(パートナー)の名前を出しつつスマートフォンを手に取る。

侑ちゃんの動きを完全にスルーして、愛ちゃんはわたしの方に向かって、

「お嬢さま。本日の晩酌は如何(いかが)なさいますか?」

と『メイドさんなりきりモード』で訊いてくる。

「軽く飲むわ。日本酒の一升瓶を1本空(カラ)にする程度にしておく」

すぐさまわたしは応答し、

「侑ちゃんにも付き合ってほしいんだけれど……どうかしら? ほとんどはわたしが飲んじゃうコトになりそうではあるけれど」

と、侑ちゃんの顔を見る。

「良(い)いわよ。付き合ってあげる。アカ子ちゃんみたいな酒豪(しゅごう)にどれだけついていけるのか分かんないけど」

苦笑いの色を帯びた表情で侑ちゃんが承諾してくれた。

 

× × ×

 

日本酒の一升瓶を1本だけ空(カラ)にするだなんてノンアルコール飲料を飲むのと変わらない。

もちろんこれはわたしの認識に過ぎず、しかも社会的常識からは遠く隔(へだ)たる認識である。

したがって、この認識は押し付ける認識であってはいけない。自分の内側に留めておくだけにする。

細心の注意を払って侑ちゃんと共に晩酌をした。侑ちゃんの気分を良くさせるコトに焦点を絞った。自分ではグイグイ呑(の)みながらも、相手側の飲酒ペースに常に配慮し続けていた。

 

× × ×

 

「顔が全然赤くなってないわね。やっぱりアカ子ちゃんは尊敬するほど酒豪なのね」

侑ちゃんを自分の部屋に招いた直後に、勉強机の手前あたりで体育座りのような姿勢になった彼女からそう言われた。

「尊敬してくれるのは嬉しいけれど、あなたの酔い具合が少し心配」

ベッドの側面に背中をぺたりと付けて侑ちゃんと向かい合うわたしも、彼女のごとく体育座りに近い姿勢になっていた。『もっと至近距離だったら、侑ちゃんがどのくらいアルコールの影響を受けているのか、より精確に把握できるんだけれどね……』と思いつつ、彼女を優しく見る。

「『面倒くさい状態にはなってない』って自覚できてるから大丈夫よ。火照(ほて)ってはいるけど、今夜は気温が低いから、プラスマイナスゼロ」

「あら。この部屋寒いかしら? エアコンの設定温度を上げてあげましょうか?」

「ううん、このままでOK。アカ子ちゃんが気づかってくれる喜びを噛みしめれば、ちょうどよく温(ぬく)もれる」

「スゴい論理ね」

「論理とはちょっと違うかも」

「論理じゃないのなら、何(なん)なのかしら?」

問われた侑ちゃんは少し照れくさそうに、

「わたしの……真心(まごころ)の……顕(あらわ)れ?」

難解な回答ではあるけれど、彼女の言いたいコトはだいたい把握できる。

「侑ちゃん、あなたがこのままで充分温かいのなら、1つのベッドで2人で寝る必要も無さそうね」

そう言ったら、

「『そういう必要性』があるのも視野に入れてたの?」

という問いが来た。

ので、

「入れてたのは否定しないわ。『ゼッタイに侑ちゃんに傍(そば)で寝てほしい!!』ってココロで叫んじゃうようなメンタルコンディションは脱したって自覚があるんだけれど、それでも、寄り添って寝る方が、わたしも心身ともに温まるし、あなたも心身ともに温まるし」

と答え、コトバをいったん切ってから、

「だけれど、今夜は互いに既に充分温まってるみたいだから、『寄り添い寝』はまた今度のお楽しみね」

とコメントを添えつつ、侑ちゃんのキレイでキリリとした眼を見てあげる。

伸ばす視線にイタズラなキモチが混じる寸前だった。

 

× × ×

 

愛ちゃんが干してくれたお布団で寝るのはさぞかし心地良いコトだろう。

羨ましさすらあるのは否定できない。でも、侑ちゃんの寝てるお布団に無闇に下りていくだなんて、はしたないし、フェアじゃないし、いろいろと迷惑よね。

ベッドでガマン、ガマン……と決意し、LEDを消した天井に視線を伸ばしていたら、

『アカ子ちゃんが社会人として上手くやっていけそうで、わたし安心』

と言う声が耳に届いた。

続いて、

『お互い頑張りましょうね。社会に負けない社会人になりましょう?』

と言うチカラ強(づよ)き声も、耳に。

「ありがとう、侑ちゃん。今言ってくれたチカラ強いコトバ、ずっと胸の奥に留めておくわ」

天井を見たまま感謝して、

「あなたが強い娘(こ)だから、そんなにチカラ強いコトバが言えるのね」

と嘘のないキモチを伝える。

――だけれど、

「強くないわよ、別に。誤解、誤解」

と、彼女から意外なおコトバ。

こんなにシットリとした侑ちゃんの声、初めて聞くかも……。

「わたし、昔と比べて『変わった』と思うの。『変われた』から、自分の弱さに気付けた。自分自身をより深く知ることができたから、弱さを認めることでかえって前向きになれた」

語る侑ちゃん。

「それに、支えてくれる存在も、わたしの間近に『できた』から」

まだ語る侑ちゃん。

「存在が、『できた』……?」

訊いてみると、

「うん。どんな存在かって言うと、わたしと同い年の、オトコノコ」

という答えが、わたしの耳に響いてきた。

天井を向いていたわたしのカラダが、ひとりでに侑ちゃんの方面に向きを換えた。