いつも通り幹事長の指定席だ。わたしから見て左斜め前には幸拳矢(みゆき けんや)くん、拳矢くんから見て左隣には和田成清(わだ なりきよ)くんが座っている。
拳矢くん&成清くんコンビに向けて、
「あなたたち今日も隣同士ね。仲が良くてステキなコトね」
と言ったら、拳矢くんの方から、
「ハイ。ゴールデンコンビと呼んでもらえたら」
という御言葉。
ふーーん。
ゴールデンコンビ、かぁ。
仲良しなのをそういう風に表現するのは別に構わない。
ただ、今の拳矢くんのお顔が少々自信過剰みたく見えたので、左腕で頬杖をつき、自分の長ーい髪を右手でサワサワと撫(な)で、
「ねえ。ゴールデンコンビを標榜(ひょうぼう)するのなら、あなたたち2人、新年度になったら、『大車輪(だいしゃりん)』になってくれるわよね?」
拳矢くんは不意を突かれたように、
「えっ、『大車輪』?」
わたしはすかさず、
「年度が変わったら2人とも4年生でしょう? 最高学年になるワケでしょう? もっとも、引き続き幹事長を務めるわたしは『最高学年のさらに上』の5年生になるんだけど、それは今はどーでもよくって」
と言い、『ゴールデンコンビ』に平等に視線を当てつつ、
「何が言いたいかとゆーと、脇本くんが卒業して副幹事長が存在しなくなるから、拳矢くんと成清くんの2人には副幹事長級の活躍をしてもらいたいの。脇本くんが抜けることで開いた穴を埋めてほしい」
優柔不断が極まって次の副幹事長を指名できないままに終わった脇本くんも悪いのだが、立ち止まってはいられない。拳矢くん&成清くんには『会の引っ張り役』という自覚をもっと持ってもらう。わたしの後方支援……というのは適切じゃないかもだけど、来たるべき2025年度は、能(あた)う限り、幹事長を続けるわたしのサポート役になってもらいたい。
「あなたたちは2人合わせて事実上の副幹事長ポジションよ」
拳矢くんは戸惑い顔だし、成清くんはわたしの方に視線を向けてくれない。
『ちょっと不甲斐なさ過ぎるわねぇ……』と頬杖をついたまま思っていたら、入り口ドアからガチャリ、と音がした。
× × ×
侑(ゆう)の顔が今年に入ってから一番柔らかい。イメージが崩れる程に柔和(にゅうわ)な顔だ。天使のような優しさ……みたいな比喩が当てはまるかどうかは自信が無いけど、優しさに包まれたニコニコ顔に、同性のわたしもドキドキを感じてしまいそうになる。うっかりしたら、何の混じり気(け)も無い彼女のスマイルに吸い寄せられてしまいそう。
入室してきてから、わたしから見て右斜め前のわたしの間近の席に座った。至近距離なのが、優しくて柔らかい侑に対する戸惑いを助長させる。
「……なに? 宝くじの一等賞でも当選したみたいに嬉しそうじゃないの、今のあなた。よっぽど良(い)いコトがあったりしたの……?」
「愛ってば、大げさねぇ~♫」
語尾に『♫』を付けて侑の幸せそうな状態を表現せざるを得ない。どうしてここまで普段の侑とかけ離れているんだろうか……。
ニコニコニッコリスマイルは持続する。わたしから視線を外したかと思えば、さっきまで『ゴールデンコンビ』を標榜していた拳矢くん&成清くんの2人を直視する。慈愛(じあい)に満ち溢れた目線というか何というか……。男子2人は、いつもと大きく違う侑に直面し、共に背筋を大仰なまでに伸ばす。
「ねぇねぇねぇ」
と言いながら、なぜか両手を揉みつつ、男子2人に前のめり気味になる侑。4年間付き合ってきたけど、侑が両手を揉むトコロを見るなんて初めてだ。
「あなたたち、このあと、お暇(ヒマ)??」
前例のないぐらい甘~い声で、卒業間際のわたしの親友女子は男子2人に訊く。
『……』
と、訊かれた後ですぐにはお返事できなかった男子2人だったけど、成清くんの方がやがて口を開き、
「予定は……特に何も、ありませんが」
それから、怯え気味になりかかっている拳矢くんからも、
「ぼくも、成清と、おんなじです……」
途端に、揉んでいた両手を解(ほど)き、侑は侑の胸の前でポン! と両手を叩く。
そしてそれから、
「じゃあ、カラオケに行きましょうよ!!」
と最高に明るい声で提案する……!!
「ほほほえっ!?!?」
拳矢くんはそんな声を出して盛大にビックリ。
「おおお大井町(おおいまち)センパイ!? センパイ、カラオケに誘っても、ついてきてくれたコト、たぶん1回も無かったっすよね!?」
成清くんも裏返るような声を出して慌てふためきまくり状態。
「これまで1回もカラオケに出向かなかったから、なんなのかしら?」
右腕で頬杖を突き始めた侑は、そう言いつつも、ニコニコニッコリスマイルを依然として崩していない。
唖然とする男子から視線を外し、再びわたしに眼を寄せ、
「愛も、とーぜん、つきあうわよね?」
若干狼狽(うろた)えながらも、
「う、うん。わたしがついて行かないと、何が起こるか分からないし。幹事長としての責任もあるし」
とわたしは答えるけど、
「なによ~~、愛、いつもよりも堅苦しくなってな~~い!?」
と最高に明るく言ったかと思えば、またもや後輩男子の方を向き、またもや彼らに熱い視線を注(そそ)ぎ始め、
「ホラホラ、類稀(たぐいまれ)なる歌唱力を、愛がサービスしてくれるのよ!? 3時間以上滞在するのは、これで確定ね☆」
えーっ……。
『歌唱力』を、『サービス』する……?? 侑、あなた、自分の日本語力までもヘンな感じになってない……??
「そして、成清くんは言うまでもなく『アニソンマスター』だし。水木一郎さんが亡くなった現在(イマ)、『アニソンキング』を目指せる若い男の子は、成清くん……あなたしか居ないわ」
侑の繰り出したトンデモ発言を受けて、成清くんは唖然呆然となりながら、
「だ、だ、だいじょうぶ……なんすか、大井町センパイ!??! ハッキリ言って、今日のセンパイのテンション、かなりおかしい……」
……構うこと無く、
「拳矢くんにしても、男女問わず、声優ソングを限りなく脳にインプットしてるはずなんだし。――拳矢く~~ん?? 誤魔化(ごまか)そうとしたって無駄よ~~?? あなたはいずれ、日本の声優ファン界隈を背負(しょ)って立つ存在になるんだから。今日のカラオケで『出し惜しみ』したら、『お姉さん』が『オシオキ』しちゃうぞ☆」
これは……。
アルコール摂取をしてからサークル室に来た、とかでは、もちろんあり得ないけども。
まるでお酒が注入されているかのような……大井町侑(おおいまち ゆう)という女の子史上最大の、異常なテンション。