【愛の◯◯】さやかが推してきた◯◯の衝撃に動転

 

「どう? 立ち直れた?」

さやかに訊かれた。

わたしの親友は中1日でわたしとアツマくんのマンションに来ていた。現在(いま)は午後1時過ぎ。ダイニングテーブルを挟んで真正面から向き合っている。

真向かいに座る親友に、

「すっかり立ち直ったわ。もう大丈夫。さやかや侑(ゆう)が看病してくれたお陰(かげ)」

と答え、ブラックでホットなコーヒーを静かに啜(すす)る。

「たしかに、わたしや侑も、あんたの為に頑張ったんだけどさ」

さやかは、コーヒーカップを置くわたしを目がけて、

「やっぱし決め手は、アツマさんだったと思うよ。アツマさんの大きな愛情こそが、愛をすっかり立ち直らせた」

コーヒーカップの把手(とって)から手を離したわたしは、少し目線を下降させ、

「……言う通りなのかもね。彼、塞ぎ込んで沈み込んでたわたしに、いつもよりも優しかった気がする」

「あんたが世界で1番可愛いんだよ、彼は」

ん……。

「さっ、さやか?? まだお昼過ぎなのに、飛ばし過ぎてない?? わたしが気恥ずかしくなっちゃうようなコトバ、連続で出してきて……」

「――嬉しそうじゃん」

「う、うれしそうって」

「あんたが気恥ずかしくなるようなコト言うのにも、『意図』があるんだ」

え!?

「アツマさんがあんたに注(そそ)ぐ愛情の凄(スゴ)さを、再認識させたくって」

愛情が……スゴい……。

……どちらかと言えば、スキンシップを行使(こうし)するコトが多いのは、わたしの方。『どちらかと言えば』みたいな留保も、もしかしたら要らないのかもしれない。それぐらい、ハッキリと、わたしはアツマくんに愛情表現をしている。

でも、わたしの方がベタつき過ぎていて、アツマくんの方のキモチにあまり注意を払えていなかったのかもしれない。キモチっていうのは当然、彼のわたしに対するキモチ。パートナーとしての、キモチ。彼の『愛情』と言い換えても良(い)い。

わたしはしばしば彼に直接『大好き』とか言うけど、彼はどのくらいの頻度でわたしに『好きだよ』とか言ってくれているだろうか?

「あれっ。なんだかナーバスに考え込んじゃってるねぇ」

さやかの指摘に呼応するように目線を上昇させ、真面目にさやかを見据え、

「思い出したかったの」

「なにを?」

「アツマくんがわたしに愛情を行使してくれた時(トキ)のコトを」

わたしは答えるけど、軽く微笑むさやかは、

「いっぱい具体例があるでしょーに。具体例が多過ぎるから、上手く思い出せなくなってるんじゃないの?」

「そ、そんなコトは……!」

そんなコトは無い、って意思表示を口にはするけど、内心では図星のレベルが高まっていた。

図星のレベルが高まるから、困って惑う。

さやかは、マグカップの中のカフェオレをぐぃーっ、と飲み干し、

「一昨日(おととい)だけどさ。夜、あんたがアツマさんにスキンシップしてから寝室に引っ込んだ後で、アツマさん、わたしたちに言ってくれたんだよ」

『どんなコトを……?』と訊けないぐらいに惑っているわたしに、

「『あいつは年中無休でワガママなのは間違い無い。けど、年中無休でワガママなのが、おれには可愛くもある。年中無休であいつのワガママを受け止めてやるのが楽しいんだ。それぐらい、おれにとって、あいつは大切な存在で。大切な存在だから、好きだから――受け止めてやるのを拒む理由が無い』」

さやかが伝えたアツマくんのコトバを脳内で噛み砕く。

噛み砕き切り、理解する。

理解するから、呆然となってしまう。

間接的な伝わり方だったはずなのに、アツマくんのキモチが、想いが、直接的に伝わってくる。

本格的に何も言えなくなる。

余裕の微笑み顔のさやか。

いかにも、まだ何か言いたそう。さやかが次に言ってくるコトバがある程度予測できるから、身構える。

「あんたたちさぁ」

口を開いたさやか。

わたしの喉(ノド)がゴクリ、と鳴る。

「――もう、結婚しちゃいなよ」

わたしがいちばん動転してしまう意味内容のコトバを言われてしまった……!!

一種の決めゼリフ。これはおそらく、一種の決めゼリフ。……そう認識しなくちゃ、平静を少しも保てなくなっちゃう。

『からかい』の意味合いが色濃いに決まっている。以前にも、『結婚しちゃいなよ』みたいなセリフが、さやかの口から繰り出されたコトはあった。今回も、たぶんきっと、ホンキで言ったワケじゃない。

そう。そうよ。眼の前の親友は、からかいたいだけ、おちょくりたいだけ。

そんなキモチでもって、わたしは、

「か、からかうの、じょーずだね、さやか。じょーだんが、たいへんじょーずなコトで」

と取り繕(つくろ)う。

……でも、

「からかいでも無いし、冗談でも無いよ」

と断言するさやかの姿が……あった。

「どーゆーこと!? どーゆーこと!? ねえ、どーゆーこと!?」

慌てふためくわたしの腰が椅子から浮き上がる。

「わたし、わたし……大学5年生になるから、まだ卒業はできないんだし……今すぐにコンヤクとかケッコンだなんて、時期尚早の中の時期尚早だわ」

「そっかなー?」

「さ、さやか!?」

「なーに」

「……」

腰を浮かせたまま口ごもるわたしが居た。右手に強いチカラが入ってしまうわたしが居た。本当に情けない状態になっていて、自分の感情を少しも言語化できそうに無かった。

「あのね。愛」

微笑(わら)っているけど真剣な響きの声で、さやかは、

「『ずっと一緒に居たい』。理由は、これだけで良いんだし」

と言い、

「あんたのご両親も、彼のお母さんの明日美子さんも、すんなり了承してくれるって思うし」

と言い、

「『自分の方はまだ大学生なんだし……』とか、あんま気にする必要も無い。案外、今みたいなタイミングが、『頃合い』かもしれないよ?」

と言ってきた。

 

さやかの伝えてきたコト。さやかの伝えてきた、さやかの想い。

……いろんな意味でしばらく打ちのめされていて、考えるコトバも話すコトバも見失った状態が、何分間か続いた。

 

やっとのコトで椅子に座り直せたけど、さやかの想いが食い込み過ぎていて、まだ上手に喋られそうに無い。

「――わたしの主張が強過ぎだったか」

さやかの柔らかく優しい声。

「まあ、あんたにとっては今年始まって以来のディープなインパクトだっただろうし、そうなっちゃうのも無理は無い。……ゴメンね、ホンキの『結婚推(お)し』をしちゃって。ココロの中の片隅にでも、しまっておいてよ」

さやかは、そう言うけど。

『ココロの中の片隅にでも……』って、言うけど。

わたし、少なくとも、向こう1ヶ月は――さやかの『結婚推し』を、上手く消化できそうに無い。

ガンガン火照(ほて)りまくっているわたしのカラダや顔。

どう冷やして良いのか、永遠に分からなくなりそうで……!!