はいあけましておめでとうございます!! 川又(かわまた)ほのかと申します!! 肥前藩出身の某・政治家が創り上げた某・大学の文学部の3年生、専攻は日本文学。身長は154センチ、体重は取材拒否、好きな野菜は空芯菜(くうしんさい)……。
あまり気の利いた自己紹介ができなくてごめんなさい。つきあっている男の子とギクシャクしているが故(ゆえ)に自己紹介が上手にできなくなる、とかでは、ありません!
大学3年の1月なのだから、就職活動シーズンが迫ってきているワケですが、未だ何にも考えておりません。『シューカツ、何にも考えてない』と女子校時代の同期の子に言ったら、『案外図太いんだね』と微妙過ぎる指摘をされてしまいました。
利比古(としひこ)くんも、わたしのこと『図太い』とか思っちゃう時もあるんだろうか……そう自問(じもん)したりもします。
え? 『利比古くんって誰だよ。アンタの彼氏かなんかか?』ですって?
すみません不用意に彼の名前を出してしまいました。利比古くんとの◯◯は、また別の話です……!
× × ×
1月4日。実家のカフェ『しゅとらうす』は今日から営業を再開する。ビル・エヴァンス・トリオの『ワルツ・フォー・デビイ』が響く店内を、わたしは接客用のエプロンをつけて動き回っている。『今日1日手伝ってくれ。お年玉上乗せするから』と両親から言われたのだ。
トレーを携えてカウンターに戻ってきたら、カウンター席に張り付いていた男子学生が、ニヤついた顔をわたしに見せてきた。
変な笑顔を見せつけてくるこの男子は、丸田吉蔵(まるた よしぞう)くん。最近『しゅとらうす』の常連客と化してきた大学3年生だ。大学3年ということはつまりわたしと同い年で、同い年であることにつけ込んでわたしに色々と絡んできたりする。ヒトコトで言うならば厄介男子だ。
さらに面倒なことに、丸田くんは『俳句大好きっ子』なのである。事(こと)あるごとに店内で俳句のことをダラダラと喋りまくっている。『こんな季語があるんですよ~』『こんな名句があるんですよ~』みたいに自分の俳句知識をひけらかすから、わたしはその都度不機嫌になってしまう。
わたしは『短歌派』なのだ。和歌を解釈したり短歌を自分で詠(よ)んでみたりが日課なのだ。短歌派人間なコトだけが反(そ)りが合わない理由ではない。だけど明らかに、彼の趣味とわたしの趣味はコントラストを成している。
カウンターに立ち続けて店内の様子を観ていたら、わたしと向かい合う丸田くんが、左腕で頬杖をつきながら、
「ほのかさんは賢いからたぶん知ってるんだろうけど、俳句の季語には『新年』っていう括(くく)りがあるんだよ」
と俳句トークをやり出してきた。
「それぐらい知ってるよ」
答えてから、
「わたし、賢いし」
と敢えて挑発的にコトバを返す。
「それは戸山キャンパスに通ってるのから来る自負かな?」
「余計なコト言わないでよ」
「余計かなあ。名門大学に通ってるのは事実じゃないか」
「事実だけど、こんな所でわたしの所属を漏らさなくてもいいでしょっ」
新年早々、イライラがピリピリと募ってくる。丸田くんに見えないようにして右手を握り締める。
そんなわたしに、
「新年の季語の素晴らしい俳句もいっぱいあるけど……ほのかさんは、『羽子板の重きが嬉し突かで立つ』って句の作者が誰か、知ってる?」
わたしは数秒後に、
「長谷川かな女(じょ)」
と回答する。
すると、
「ウオオーッ、即答してくれるとは!!」
と、丸田くんがはしゃぎ始め、
「だったらだったら、『初夢をさしさはりなきところまで』って句があるんだけど、この句の作者も分かったりする!?」
と、わたしに向かって派手に前のめり姿勢になってくる……。
距離の近さに焦りながらも、
「わ、分かるよ。た、鷹羽狩行(たかは しゅぎょう)、だよね」
「大正解!! 大正解、大正解」
『大正解』3回連呼の丸田くんの勢いが怖すぎて思わず仰け反ってしまうわたしに、
「俳句に対する理解が深くて本当に嬉しいよ!! 吟行(ぎんこう)がしたい気分になってきた」
吟行。どこかの場所を散策して即興で俳句を作る。
わたしも吟行に誘ってくるつもりなんじゃないか。
重い汗が背中をダラリと伝う。
逃げたくて、
「ぎ、吟行(ぎんこう)もいいけど、銀行(ぎんこう)も、いいよね」
「金融機関の方の『ぎんこう』?」
「そ、そう。わたし、ATMに行く用事を思い出して……」
「そっかぁー」
依然としてすこぶる楽しそうな丸田くんは、
「銀行も、もっと気を利かせて、ATMに季節の俳句を表示させたりしたらいいのにねえ☆」
……どこまで俳句人間なの。