【愛の◯◯】甘える妹 テイク2

 

「ふぃー、疲れた疲れた」

マンションの部屋の玄関で思わずそう言ってしまう。体力があり過ぎるがゆえに本当はそんなに疲れていない。しかし、こういうコトバがついつい口から出てしまうのである。癖みたいなモノだ。

ダイニング・キッチンに入っていく。

すると、驚きの光景をおれは眼にしてしまったのだ。

キッチンのコンロの前で愛がお料理している。それはいい。だが、愛の他に、部屋にはもう1人……!

おれの妹が、リビングとダイニングの境目のあたりで、正座をしていたのである……!!

「あすか!?」

ギョッとしておれは叫ぶ。

「なんでおまえマンションに来とるんじゃ。しかも、正座だなんて」

ここで、鍋の火を止めた愛がおれの方に振り向いてきて、

「どうしてもあなたに会いたかったそうよ、アツマくん」

いや、直前の週末に邸(いえ)の方で会ったじゃねーか……と疑問をおれは抱くが、

「お兄ちゃん」

と今度は妹が口を開き、

「思わず正座しちゃうぐらい……待ち遠しかったの」

なにそれ。

意味わからん。

デレ期か?

しかし、普段あんなに攻撃的な妹がデレ期突入だなんて、あまりにも唐突過ぎねーか?

振り返ればこの前の金曜日、『スキンシップがしたい』と言ってきて、おれの背中に妹がひっついてきた。

その時は、『これも一種の気まぐれで、すぐに平常営業のあすかに戻るだろう』と思っていた。

しかし……あすかは、『戻らなかった』みたいだ。

正座しているあすかが幼く見える。目線は下向き。兄のおれを見るのではなく床を見ている。恥ずかしくて兄を上手に見上げられないご様子。

「あのね、お兄ちゃん」

雪の降りかかるがごとくに背筋が寒くなるおれに、

「金曜日のアレだけじゃ、甘え足りなかったの……」

と妹が……!!

 

× × ×

 

妹と隣同士で飯を食う。料理の味を感じ取る能力が激しく鈍る。

向かい側の愛は闇に包まれた笑顔であった。

 

食事が終わった後。

「風呂」

そう言っておれは妹から逃れようとするが、

「ダメだよお兄ちゃん。食後すぐにお風呂に入ったらカラダに悪いよ」

という指摘が背中に食い込んできてしまう。

追い込まれたおれは、

「じゃあ、シャワー」

と言うが、

「シャワーで済ませるなんて、わたし許さない」

と、椅子から立ち上がる音と同時に妹は。

ぺたぺたとおれの背中に歩み寄ってきて、

「お願いだからソファに座って」

と懇願の妹。

「どうするつもりなんだ」とおれ。

「それは寄り添ってからのお楽しみだよ」とあすか。

『寄り添う』って。『お楽しみ』って。

「おまえちょっと乱調過ぎねーか。ショックな出来事でもあったんか」

「ないよ。」

非常に甘えん坊な声であすかが答えた。

 

× × ×

 

「おにーちゃん。『おかわり』だよ、『おかわり』」

右隣から密着寸前のあすかが謎のコトバを発してきた。

おれのツッコミを許さず、続けざまに、

「金曜の背中スキンシップで物足りなかったから、その『おかわり』」

諦めの境地に達してしまったおれはやや猫背になり、

「『おかわり』だか何だか知らんが、実行するならさっさと実行してくれ」

おれの要望に応え、左肩を右肩に密着させてくる。右手の上に左手が被さる。

ソファ上で完全なるスキンシップ状態が出来上がる。

あすかの黒髪から何だかオトナっぽい匂いがする。コドモに戻って甘えてくっついているというのに、アンバランスだ。

「……あのだな。やはり、おまえが21歳の大学3年生である事実は、動かせないワケだ。だから、ここまでコドモっぽい行動に走るのは……どうかと思うぞ?」

「そうだね。わたし、21歳の女子大学生だね」

おれの右手を左手でフニフニしながらそう言うが、

「でも、お兄ちゃんの妹でもあるんだよね」

と言う明るい声が、おれの耳元に……。

「もう幾つ寝ると2025年じゃん」

左手で右手フニフニをやめたかと思えば、左腕を右腕に絡ませてきて、

「年が明ける前に、最大限の感謝がしたいの、お兄ちゃんに。支えてくれるから、助けてくれるから、尊敬してる。前よりもずっと、尊敬してる。お兄ちゃんのコトが、『大嫌い』の『ハンタイ』なの……」

背中の右側にあすかのオデコが触れた。

仕事中とは比較にならない程のプレッシャーがのしかかってきている……!!!