「祝日の昼下がり。オープンカフェで、ワガママな星崎姫(ほしざき ひめ)と向かい合って座り……」
「ちょっと待って戸部くん。『ワガママな』ってなによ」
「揺るぎない事実だろ」
「根拠が無いっ」
「だって、帰京したのを今日になっていきなり伝えてきて、『会ってくれなきゃ呪う』とか脅してきやがったし」
「それのどこがワガママなの!?」
「星崎」
「……なに」
「おまえのリボン、大きいな」
× × ×
「……『デカリボン』とか言ってきたら往復ビンタだからね」
「おれはそれほどひどくない」
「ほんとォ!?」
「ところで勤労感謝の日だ。ここで、お互いの普段の勤労を振り返ってみたい」
「お仕事の反省会でもしたいわけ」
「反省すれば、成長できる」
「だったら、戸部くんから――」
「いいや星崎おまえからだ」
「どうしてもわたしを『先出し』にしたいわけ。ワガママなのはあなたの方ね」
「星崎は名古屋の芸能プロダクション勤め。正直言って得体の知れない仕事なわけであるが」
「表現が適切じゃないからっ。……あのねっ、弊社所属のお笑いタレントが、地元の放送局で冠番組(かんむりばんぐみ)持ってるんだけど。東京(こっち)でも放映されてるはずだから、今日は戸部くんにPRしたかったの」
「売り込むんだな」
「売り込んで何が悪いの」
「地元の放送局って、CBCテレビとかか?」
「げっ。名古屋のテレビ局の名前をあなたが認知してるだなんて」
「なんだよ悪いかよ」
「具体的な局名は伏せておくわ」
「オイオイ日和(ひよ)りやがって」
「番組名だけメモ用紙に書いて渡すから、帰ったらググってみてよ」
「星崎さんよー、おれの顔を見て話してくれよー」
「……戸部くんは喫茶店勤めも2年目になって。毎日のように『2年目のジンクス』が発動し、失敗を積み重ねて……」
「それはおまえの妄想か?」
「え、失敗、積み重ねてないの」
「積み重ねてるのはな、経験値だ、経験値」
「経験値ってあなた、自分自身をロールプレイングゲームの主人公みたいに思ってるの? 呆れるわね」
「星崎よ」
「……」
「おまえ、ハヤシライスを作ったことはあるか??」
「は、ハヤシ!?!?」
「無いんだな、作ったこと。――あのな、おれはとうとう、レシピも何も見ずにハヤシライスを作れるようになったんだぜ??」
「自慢したいの」
「おまえも味噌煮込みうどんぐらい自分ひとりで作れるようになれよ」
「ヤダ。味噌煮込みうどんは絶対に作らない」
「これから寒い季節になるから、味噌煮込みうどんは身に染みるぜ」
「……味噌よりハッシュドビーフの方がマシよ」
「おおぉ!? それは、『ハヤシライスの作り方を教えてほしい』って意思表示か」
「戸部くんに頼るのなんてヤダ」
「強がりだな〜〜。大きなリボンまで強がってるみたいだ」
「あなたを『1週間きしめんしか食べてはいけない』刑に処するわよ!?」
「なんだそれー」