「はーいこんにちはー、中川紅葉(なかがわ もみじ)だよー。
『ランチタイムメガミックス』、はじまるよ〜ん。
アレだね。
11月だね、今日から。
わたし紅葉(もみじ)って名前だから、毎年紅葉(こうよう)の季節は、樹(き)の葉っぱの色づき具合が気になるんだけど、今年は、11月になっても、色づいた葉っぱがテカテカと照っているよね。
『ちいさい秋』というより『みじかい秋』だけど、みんなも、並木道の樹の変化に注目してみたら、きっと面白いと思うよ。
――気温が一気に下がるのに注意しないといけないね。
では、本日のオープニングナンバー……」
× × ×
小泉今日子の「木枯しに抱かれて」という多くの教師陣も産まれる前の楽曲を流そうかとも思ったが、木枯らしの季節にはまだ早いのが決定的な理由になって取りやめた。
さてさて、放課後なんである。放送部ルームに来ているんである。ミキサーの真横に座っているんである。ガラス窓の向こうでは下級生が発声練習をしているんである。
ミキサーの傍(そば)には秋本モネも居る。パイプ椅子に座っている。ちょうど膝丈(ひざたけ)のスカートから長い脚が伸びているのが眼につく。
『モネの脚が羨(うらや)ましい』というキモチも含まれた溜め息をついてしまう。
そしてそれから、脚→胸→顔へと視線を上昇させていき、
「モネ? わたし部長として、できるだけ早く新しい部長を決めたいんだけど。意見交換しよーよ?」
と告げる。
しかししかし。
モネがボンヤリとしていて、わたしに対して反応してくれない。まさに『ココロここにあらず』状態。『虚空(こくう)を見つめている』というか何というか。
「ちょーっとぉ。なんか反応してちょーだいよぉ」
わたしがこう言っても、「……」と無言を貫き通す。ダメだこりゃ。
モネらしくない。だけど、『モネにもこんな日がある』と割り切るしかない。
モネは放置してあげておいて、壁際でお喋りをしている2年生コンビに視線を移す。
本田くるみと寺井菊乃(きくの)。パイプ椅子に座って向かい合い、とりとめないコトバを交わしていた。
静かに立ち上がって、くるみ・菊乃コンビの近くまで歩み寄り、2人を見下ろす。
「ねえ、くるみ、菊乃。今、少しいいかな?」
くるみも菊乃もわたしに注目する。
モネより更に長い髪のくるみ。いつも通りのツインテールの菊乃。双方から視線を寄せられるわたしは、
「やっぱり、11月になってもわたしが部長であり続けるのはちょっとおかしいと思うの。だから、来週の終わりまでには次期部長を決定したい。モネの意見も取り入れたかったけど、あんな風に『ココロここにあらず』で、参考になるようなコト言ってくれそうにない。だからここは、くるみや菊乃の意見を取り入れてみたくて」
長い髪が目立つくるみが、
「どういう意見を2年生に言ってほしいんですか?」
「そりゃもう、『2年生から見て、部長の適性ありそうな部員は誰か』みたいな意見だよ。部長は必然的に2年生以下から選ばれるんだから」
くるみは苦笑して、
「2年生『以下』ってコトは、1年生部長も可能性に含まれてるんですか」
「基本、含まれてない。コトバの綾(あや)みたいなモノ」
そう言ってから、くるみの方に眼を凝らして、
「くるみ。あんたが部長やったって良いんだよ。というか、部長候補者の中の『本命』と言って良いぐらい」
表情を変えず穏やかスマイルのくるみは、
「部長、わたしに対する評価が高過ぎません?」
「高過ぎじゃない。2年生だって、みんなあんたを高く評価してるはず」
「具体的に」
「具体性は後回し」
「えぇ〜〜」
なーんか、くるみのリアクション、ギャルっぽい。見た目は全然ギャルっぽくないのに、なんでそんなに『おフザケ』なリアクションするのかな。
呆れてしまい、菊乃の方に眼を転じる。標準的なツインテール。何をもって『標準的』とするかは別の話で、そんなコトよりも、
「菊乃は、『部長よりも副部長向き』だって、わたし勝手に思っちゃってる。もし、くるみが部長になったら、陰で支えたり、暴走気味な時は制御をしたり。そんなふうな役割を、菊乃に勝手に期待してる」
「わたし、部長になったとしても、暴走なんかしませんよぉ〜」というくるみの声が右耳に響くが、わたしは菊乃に視線を寄せ続け、
「副部長候補の『対抗馬』も思いつかないし。やっぱ、菊乃しか副部長になるべき子は居ないんじゃないかな。なんだか、部長より先に副部長が決まっちゃうような流れだけど」
「部長は『くるみ推し』なんですよね?」
やや苦笑して菊乃が言う。
「わたしとしてはね。推しが新部長になってくれなかったら泣く」
「なんですかそれは」
やはり少し苦笑いで菊乃がツッコむ。
「だーってさぁ」
菊乃からくるみへと視線を転換させて、
「くるみは、かわいいんだもの」
言われたくるみは少しビックリして、
「どういうコトですか……部長?」
「どういうもこういうも無い。わたしは、くるみが、かわいい。それ以外のムダなコトバは要らない」
「へ、へぇーっ……」
わたしから眼を逸らし、長い長い髪に右人差し指で触れ、緩やかに髪を撫でる。そんなくるみの姿があった。
追い打ちタイム。
追い打ちをかけるタイミングになった。
追い打ち、というのは。
「ねえねえねえ、くるみぃ」
「……まだ、何か?」
「現部長として言うんだけど」
「……ハイ」
「あんた、さぞかしモテるんでしょ」
「ええええぇ!?」
「モテないワケ無いよ。男女問わず、ね」