「脇本くん」
「うん」
「ふぅ」
「?」
「涼しいわね」
「え」
× × ×
「さぁ、今日も『下級生トーク』を始めていくわよ? たぶんサークル部屋に誰も来ないし。わたしと脇本くんの幹事長・副幹事長コンビで存分に」
「本当に誰も入って来ないかなぁ」
「甘く見られたモノね」
「……羽田さん?」
「もっとしっかりしなきゃダメよ脇本くん、副幹事長として。もっとしっかりしてたら、誰も入って来ないのが分かるはずよ」
「……第六感とかじゃないよね」
「〜♫」
「なぜ、鼻歌を」
「ステキでしょ、わたしの鼻歌。ステキって言ってよ」
「だ、大丈夫!? 本題から逸れまくってない!?」
× × ×
「今日は1年生の女の子2人について語るわよ」
「1年女子2人か。羽田さんや大井町さんは女子が2人定着したから嬉しいよね」
「とーぜんよ」
「どっちから語るの? 小松さん? 敦賀さん?」
「小松まなみちゃんから。わたしより少し背の高い165センチのボーイッシュな女の子。短髪で快活。ソフトボールに積極的」
「羽田さんは情報のまとめ方が上手いね。小松さんがどんな子なのかムダ無く伝わってくるよ」
「ありがとう」
「羽田さんほどじゃないけど、小松さんもソフトボール上手だよね」
「ソフトボール部出身では無かったみたいだけどね」
「でも、肩が強いし、守備範囲も広い。脚が速いし、三振や凡打(ぼんだ)も少ない」
「全ての項目において脇本くんを凌駕(りょうが)してるのよね」
「りょ、凌駕してるのは僕だけじゃなくない??」
「敢えて脇本くんと比較したのよ。『負けたくない』キモチを呼び起こすために」
「『負けたくない』って、僕が、小松さんに?」
「男子がだらしないと、まなみちゃん物足りないと思うの」
「……確かにな。言えるかもな。小松さんサークルの男子に厳しめだし。最高学年の僕や新田をたしなめたりもするし。『脇本センパイも新田センパイもソフトボールの練習にもうちょい真面目になるべきだと思います』って言われたコトもある」
「言ってくれるだけ良いじゃないのよ。気にしているからたしなめるのよ。『真面目になるべきだと思います』は彼女なりの激励のメッセージよ?」
「伝統的に……女子が強いんだよね、このサークル」
「でも、女の子って、時には弱いわ」
「……んっ」
「時には弱くなっちゃう。その弱さを埋めてくれるのが男子の存在」
「……」
「ちょっとおー。固まらないでよっ」
「いや……。僕らは、埋められるのかなって。女子の『弱さ』なるモノを。上手くできる気がしなくて」
「優しくなるのよ。自分の中にある優しいキモチを目覚めさせるの。脇本くん、あなたならできるはずよ。例えば、まなみちゃんがピンチになった時、あなたならそっとサポートできるはず」
「ピンチって、どんな場合か、分からない」
「……どうして5・7・5のリズムでそんなコト言うのかしらね」
「えっ、怒ってる!?」
× × ×
「もう1人の1年女子は敦賀由貴子(つるが ゆきこ)ちゃん。まなみちゃんより髪が長くて、まなみちゃんよりファンシーで、いろんなジャンルの漫画を読んでる。大阪出身で、2年男子のシュウジくんとは同じ高校の後輩と先輩という間柄」
「んーと、敦賀さんとシュウジの高校、大阪のどこにあるんだっけ」
「地理的な話題はどーだって良いでしょーに」
「……きみ、まだピリピリしてる?」
「2年男子の主力メンバー、シュウジくんの他に、京都出身のブンゴくんが居て」
「大阪と京都だもんな。距離が近いよな」
「距離が近いあまり、ブンゴくんは、シュウジくんの後輩の由貴子ちゃんに胸をときめかせるようになって――」
「ちょちょちょっとっ!!」
「なによ」
「『胸をときめかせる』だとか、そういうあからさまな感情はまだ露(あら)わになってないでしょ!? たしかにブンゴは、敦賀さんをジーッと凝視してる時もある。だけど、本気で好意を寄せてるのかどうかは……」
「ごめんなさい、行き過ぎた表現があったわ」
「……きみ、少女漫画、読み過ぎてるんでは」
「どうしてそう思うの?」
「少女漫画を読み過ぎて、恋愛脳と化してしまって……」
「……少女漫画なら、由貴子ちゃんの方がよっぽど読んでるわよ。由貴子ちゃんはね、漫画ド素人のわたしより全然格上なのよ」
「格上、とは?」
「漫画において」
「ああ……そういうコトか」
「――脇本くんのせいで、話が逸れていっちゃった」
「そ、ソッポ向かないで。ソッポ向いて、長い栗色の髪をかき上げないで」
「む〜〜〜っ」
「む、ムカツキを、声に出してオーバーに表現しないで」
「気まぐれで悪かったわね!!!」
「……すみません」
「由貴子ちゃんは、サークル員の中で、わたしの次に気まぐれだけど」
「そうなの!?!?」