生徒会長インタビュー記事をチェックしている。半分を過ぎたところまで読んだ。
インタビュー記事に添えられた生徒会長・伊勢崎(いせさき)くんの顔写真を見る。やっぱり何だか冴えない。冴え過ぎるぐらい冴えまくっていた前代会長の川口小百合(かわぐち さゆり)さんとの落差がスゴい。今の代の生徒会は全体的に地味キャラだ。特に地味キャラで「売っている」というワケではない。いろいろと「出し切れていない」印象が強い。諸行事での伊勢崎くんの挨拶も、淡々とし過ぎている気がする。
「生徒会長インタビューのチェック、終わりましたか?」
1年生男子クンのタダカワくんが近付いてきた。わたしは顔を上げてタダカワくんを見る。椅子に座っているわたし。立っているタダカワくん。長身のタダカワくんを見上げる格好になる。
「ゴメン、まだ途中」
「終わったら、おれにも見せてくださいね」
「できるだけ早く終わらせるから」
「おねがいします」
ここでわたしは、
「タダカワくんも座ったら? 椅子なら幾らでもあるんだし」
「アッはい」
わたしの身長も170センチ以上なのだ。でもタダカワくんの高さには負けてしまう。長身女子としてそれなりのプライドはあった。張り合うつもりは無いけど、タダカワくんを見上げていると、微かな挫折感が生まれてくる。
タダカワくんはわたしの約3メートル手前に椅子を置いて座った。
「タダカワくん。クラスの出し物の進捗は、どう? きみはカラダが大きいから、力仕事を任されてるんじゃないかな」
「本宮(もとみや)部長のおっしゃる通りです。重いものを運ばされまくってます」
「頼られてるんだねえ」
「それなりに」
活動教室のドアが、ガーッと開く音がする。もう1人の1年生男子クンであるノジマくんの入室であった。
肩を落としながらこっちにやって来て、
「クラスが出し物準備してるとこに居づらくなったから逃げてきてしまったよ。ぼくが居ても居なくても同じな気がして」
とタダカワくんに顔を向けながら言い、
「タダカワは、たぶん必要とされてるんだよな」
「なんだそれはノジマ。劣等感か〜?」
「おまえのスケールの大きさが羨ましいんだよ」
2学年お姉さんの部長たるわたしは、
「ノジマくん、タダカワくんに、ジェラシー?」
と言って、ノジマくんを「揺らす」。
「変なコト言わないでくださいよ、部長さーん。ジェラシーとは違いますから」
ノジマくんの反発を聞かなかったフリをして、
「ダメだぞー。ジェラシーは、美徳の反対なんだから」
「……美徳の反対、ですか」
少し困惑気味の表情のノジマくん。
「ノジマくんは来たばっかりだけどさ、1年男子コンビは、今日は美術部と写真部の取材に行くんでしょ? 早く出かけた方が良いよ」
「それもそうですね」と言ったのはタダカワくんの方で、椅子から腰を上げ始めている。
「モチベーション……上げなきゃなぁ」と言ったのはノジマくんの方だ。入り口ドアの方を向いている。若干猫背気味で若干気になる。
× × ×
2人は出ていった。
わたしだけが活動教室に居残り。部長のわたしがお留守番役だ。
白板(はくばん)に視線を伸ばす。
『・オンちゃんは今日は欠席(本宮のスマホに連絡あり)』
こんな連絡事項をわたしが白板に書いていた。その連絡事項を眺めながら、唯一の2年生部員のオンちゃんのコトを思いやる。
昨日の図書委員の打ち合わせにおいて何かあったのが欠席の原因……とわたしは推理していた。同じ女子としての直感。男子なんかよりも推理は的を射ているはずだ。
オンちゃんを想いつつ白板を眺め続けていたのだが、白板の右横の入り口ドアが動いたので我に返った。
顧問の椛島澄(かばしま すみ)先生がやって来たのである。
× × ×
双方椅子に腰掛け、机を挟んで向かい合う。何だか面談や面接みたいだ。
椛島先生と、ふたりきり。1年男子コンビはしばらく帰ってこないだろう。美術部と写真部を綿密に取材しているはずだ。
彼らが帰ってこない時間が貴重だった。椛島先生とふたりの時間が貴重だというコトだ。わたしがそう考える理由はちゃんとあって。
「貝沢(かいざわ)さんはお休みなのね」
オンちゃんの欠席に椛島先生が言及する。今日の彼女はポニーテール。初の赴任地がこの学校だったんだけど、この学校でのキャリアは長い。そんな年代だというコトである。そんな年代の女性教師らしいステキさが滲んでいる見た目だ、とわたしは思う。
「欠席ですねー。オンちゃんにも、彼女なりの事情が」
「えっ、気になるじゃないの、本宮さん」
先生の声がウキウキした声になる。教え子女子の◯◯な事情みたいなトピックに先生は敏感な方だ。心なしか前のめり姿勢にもなってきている。
『ここは、返す刀を抜くところ』
そんな決心がわたしにはあったのである。
あったのであるがゆえに、
「高校2年の女の子はとってもデリケートなんですから。デリケートなところに無闇にタッチしない方が、わたしとしては嬉しいです」
と釘を刺す。
ただ、釘を刺すのは、『返す刀』を繰り出す前段階のアクションだった。
「言うようになったね、本宮さんも」
「たしなめてしまったみたいで申し訳無いです」
一応謝っておきつつも、
「……せっかくなんで、1年男子クンが帰ってくる前に、先生と『突っ込んだハナシ』がしてみたいかも」
キョトン、となる椛島先生。
「それ、どんな話? 『突っ込む』って、いったいどこに」
敢えて返答せず、先生の眼にわたしの眼を合わせた。
息を吸う。
それから、わたしの中の『ストック』を放出していくかのように、
「今日わたしは、午前中に、二宮(にのみや)先生の英語の授業を受けました。二宮先生は授業中にマーカーを3回も手から落としました。白板に板書しようとしたら、何故かマーカーがポロッと手からこぼれたり。不思議な現象が起こってました」
「ど……どーして……いきなりそんな報告をわたしにするの……本宮さん」
唐突な報告による困惑だけじゃない。
明らかに、
『二宮先生』
というワードがわたしの口から出てきたがゆえの、動揺が見られる。
「先生! 先生の意見を聞きたいんですけど」
わたしの揺さぶり。彼女の見開かれる眼。
「女性に年齢を訊いてはいけない。では、男性の二宮先生には? 二宮先生に歳を訊くのは許されるんでしょうか」
テンパり気味に、
「う、うーーん。……あまり、オススメはできないかな。年齢を訊き出すよりも、二宮先生の方から情報を公開してくるのを待った方が良いかもしれない」
と先生は。
情報公開。割りと便利な漢字4文字だ。
でも、
「高校生はコドモですから、情報公開を待ち切れない子だって多いと思うんですよ」
「も、もとみやさーん?? 話をどんな方向に持っていきたいのー??」
さらにテンパる椛島先生。
構わず、
「この学校の近くに、マックかつドナルドなファーストフード店がありますよね? そしてその隣に、ファミリーかつマートなコンビニエンスストアがある」
と言い、それから一拍(いっぱく)だけ置いて、
「見ちゃったんです。椛島先生が、ファミマでの買い物を終えて出てくるのを。そしてしかも、椛島先生だけが出てくるんじゃなくって、後ろには、もう1人。30代中盤でなかなか薬指に指輪を嵌められない、男性の、英語の先生が……!!」