【愛の◯◯】プレゼントを超えて

 

学生会館の「CM研」ルーム。今日はもう授業に出席する必要が無いぼくは、先輩の馬場好希(ばば こうき)さんと雑談をしている。

某音楽専門のテレビ局が、

『6月9日はロックの日!!』

というCMを頻繁に流しているらしい。

馬場さんからのそんな情報提供を受けて、ぼくは、6月9日があすかさんの誕生日だというコトを意識する。

「6月9日は、羽田くんにとっては、ロックの日というだけでは無さそうですよね」

馬場さんが微笑しながら言ってきた。

「馬場さん、あすかさんの誕生日を記憶してたんですね」

「人の誕生日をインプットするのは何故か得意なんです」

「へぇ……」

実はあすかさんのコトは割りと「CM研」のメンバーにも話していたのである。

もちろん最もプライベートな所までは触れていないが、『ロックが好きでロックバンドでギター弾いてて、なおかつ誕生日が6月9日』というコトは言ったことがあった。

「羽田くんにしてみれば、あすかさんと同じ邸(いえ)に住んでるワケですから、バースデープレゼントとかはすぐに渡せると思うんですが」

「肝心なのは、どんなモノをプレゼントするのかです。すぐに渡せるけど、何を渡すかまだ決まってないんですよ」

 

× × ×

 

彼女のバースデーは4日後。早急にプレゼントを考えて決めて買わなければならない。

そうではあるんだが。

プレゼントを考える段階でつまずいて堂々巡りになるよりも。

オルタナティブな方法があるんでは無かろうか。

その、オルタナティブな◯◯を、帰りの電車の中で思案し続けていた。

 

× × ×

 

夕方のお邸(やしき)の広間にガンガン音楽が鳴り響いている。

これは確かザ・キラーズというロックバンドの曲だ。英語楽曲なので、帰国子女で事実上バイリンガルのぼくには歌詞の意味が入り込んで来てしまう。

でもそんなコトはいいとして、

「こんなに爆音なのはどうしてですか、あすかさん」

ロックな日がバースデーの、爆音を流している彼女は、広間のビッグなソファでくつろぎにくつろいでいる。

「バースデー間近だからテンション上げたいんだー」

それが彼女の答えだった。

「上げるのは良いんですけど、上げ過ぎないでくださいよ」

「利比古くんにはこの程度の音の大きさが五月蝿(うるさ)かったりするの!?」

軽い溜め息の後(のち)にぼくは、

「今のお邸(やしき)って、あすかさんが爆音流すのを止められる人が居ないんですよね。明日美子さんは怒(おこ)りなんかしませんし、流(ながる)さんはあすかさんに遠慮しちゃいますし、梢さんは放任主義ですし……」

「ねえ」

反省の値(あたい)がマイナスになるかのように少しも反省の素振りの無い彼女が、満面のスマイルでもって、

「祝ってくれるよね!? 祝ってくれるんだよね!?」

はいはい。

「祝ってあげますよ。当日の朝になったら」

「予祝(よしゅく)は無いの」

「ありません」

「断言!!!」

五月蝿(うるさ)いですよ。

彼女の左斜め前のソファに座っているぼくは、

「令和6年6月9日になるのを楽しみにしておいてください」

「なんで年号まで言ったの」

「何となくです」

「ウワッ」

「なんですかそのリアクション。爆音のロックミュージックに加え、あすかさんの奇妙なリアクションまでも……」

「爆音、こだわるんだね」

「こだわっちゃ悪いですか」

耳に今届いてくるのはプライマル・スクリームの楽曲だ。

「これ、ぼくやあすかさんが産まれる10年以上前の楽曲じゃないですか!? 日本で言ったら平成初期ですよね。相変わらず、趣味嗜好が、タイムマシンに乗ってるかのようで……」

「受け容れてよ」

「拒絶するとはヒトコトも言っておりません」

「やった☆」

なーにが「やった☆」なんですかっ。

このままでは、あすかさんの言動に呆れてしまう一方だ。

洋楽が爆音で流れ続けるのは仕方が無いから割り切る。

ただ、あすかさんから一方的に有ること無いことを言われまくるのはイヤだ。

イヤだから、何とかする。これについては妥協したくない。

あすかさんの勢いに連戦連敗なんて懲り懲りだ。

だから、背筋を伸ばし、丁寧に息を吸い込み、それから、

「バースデープレゼントのコトなんですけどっ」

「おおぉ!? もしや、とっても高価なモノを用意してたり!?」

「最初に気になるのがモノのお値段なんですか……まったくほんとーに」

「スネた〜。利比古くんがスネ夫くんになった〜〜」

「スネてなんかいません」

「説得力が無い! ……で、具体的な、価格帯は?」

「そ・も・そ・も」

「んー??」

「バースデープレゼントのコト、と、言ったんですけども! 今回は、プレゼントは、買わないコトにします!!」

当然ながら、あすかさんは衝撃を受ける。

当然ながら、ショックで口が半開きになる。

当然ながら、悲しそうな表情が徐々に浮き彫りになっていく。

そんな顔しないでください。

そんな顔するものでも無いですよ。

ちゃんとぼくにも考えが有るんです。

「プレゼントは買いません。ですけど……」

「え、えっ?」

オルタナティブ

「おるたなてぃぶ、?」

オルタナティブ・ロックの、オルタナティブですっ」

「それが……?」

「あすかさん。言いたいコトを言います。ぼくは、あなたのバースデーのときに、『プレゼント以上のコト』を、してあげたいんです」