【愛の◯◯】おれをめぐって紛糾の放送部室

 

放課後の中庭。

たくさんの生徒が通り過ぎていく。

おれは通り過ぎていく生徒たちに、

「あのぉー」

とマイクを持ちつつ声を掛け、呼び止めようとする。

しかし、ほとんどが無視。

呼び止められ立ち止まる生徒がいても、

「この学校の制服についてどう思ってますか?」

と訊いてマイクを差し出した途端に、

「ごめんなさい急いでるんで」

と早口で言われ、逃げられたりしてしまう。

追い込まれ始めるおれ。

「生徒がインタビューから逃げていくのは豊崎くんのせいだよ。インタビュアーとしてもっと堂々と踏み込んでいかないと」

背後で篁(タカムラ)かなえがおれを詰(なじ)る。

「なあ。代わらないか? タカムラ。おまえがインタビュアーの方が生徒の食い付きも良いんじゃないのか?」

「いやだ!」

「どうしてだよ」

「わたしは撮影、キミはインタビュアーって決めたんじゃん。覆(くつがえ)らないよ」

「しかし、このままでは」

「コラッ。うろたえてないで、通行する生徒に迫っていくんだよ!」

なーんかおれの1番上の姉ちゃんみたいな言い回しだ。高校1年女子のタカムラとはかなりの年齢の開きがあるんだがなぁ。

「なんで豊崎くんこっち見るの!? カメラ持ってなかったら、お腹にパンチしてるよ」

ええぇ。

「公衆の面前でそれはNGだろ」

「キミのインタビュアーとしての資質の方がNGなんじゃん」

「資質ぅ?」

タカムラはここで自分のスマートフォンを睨みつけ、

「あーっもーっ。タイムリミット来るじゃん。そろそろ放送部のとこに移動しなきゃだよ。番組製作の日程がおかしくなっちゃった。イラつく」

と一気に言い、

「ねえっ! 責任は取らなくても良いから、300円くれない?」

「どっどういうことだ。カツアゲか、おまえ」

「人聞き悪過ぎる。わたしはね、明日のお昼の購買のパン代を浮かせたかったの」

 

× × ×

 

放送部の中川紅葉(なかがわ もみじ)部長が眼の前に座っている。脚は組んでいない。

ガラスで仕切られた先のスタジオをバックにして、

「特訓に来たんだって?」

と中川部長。

「『特訓』はタカムラが勝手に言い出したまでですが、おれにしても、そろそろ『ランチタイムメガミックス』に積極的に関わっていきたいな……と思ってまして」

「積極的に関わる。ということは放送にも出演する。そしてやがて、1人でパーソナリティができるようになる」

「そのためにはどうしても、喋りが上手くならないと、ですよね……」

緊張からか、やや肩が張っているおれ。

その背後でタカムラが、

「このままだと豊崎くんは使い物にならないので。さっきの中庭インタビューもヒドかった。中庭インタビューの体をなして無かった。……『特訓』ですね。それしか無いです」

「なるほど。把握できた」

タカムラにそう言った中川部長はミキサーに置いていたA4サイズのプリントを手に取る。

そしてそれから、おれにプリントを手渡して、

「トヨサキくん。まずはそのプリントの上側の【発声のウォーミングアップ】って欄に従って声を出してみて」

おれは言われるがままに【発声のウォーミングアップ】欄を見ながら、

「あ、え、い、う、え、お、あ、お」

と声を出す。

「んー」

と、中川部長は、

「この時点でたどたどしい。高校入ったばかりだからかな。変声期も完全に終わってないみたいだし」

変声期??

変声期、ですか??」

「わたしの予測だと、あと半年経てば、トヨサキくんの変声期は終わって、声が安定する」

そうなのか……。

意識したコトも無かった。

「中川部長ってそんなコトまで考えてるんですね」

「わたしを舐めないでよ。この部活で『声』のコトに関しては1番の専門家なんだから。某組織が出してる変声期を解析したDVDだって穴が開くほど観てるんだし」

「いやいや、DVDに穴は開かないでしょうに」

おれがこう言うと、何故か眼の前の彼女が不機嫌気味になって、

「なんの意味も無いツッコミはやめてくれない!?」

さらに、背後のタカムラが、

豊崎くんバカでしょ。話の『流れ』ってモノを全然意識できてない。意識しようともしてない」

と罵倒してくる。

おれは身も心も窮地に陥る……。

 

『紅葉(もみじ)、パワハラご苦労さまだねえ』

 

横から言ったのは、放送部ナンバー2の萌音(モネ)先輩。

パワハラって断定するのイヤだよ、わたし」

中川部長がモネ先輩を睨むが、

「たしかにトヨサキくんはイジめ甲斐がある。でも、行き過ぎはダメだよ。近年いろんなハラスメントに対する締め付けが厳しくなってるじゃん?」

「モネっ。わたしやタカムラちゃんは、トヨサキくんに猛特訓を課したいの。だから下校のチャイムが鳴るまでにできるだけ、彼に喋りのテクニックを叩き込みたいの。悠長にしてるヒマなんか……」

「トヨサキくんはもしかしたら、実戦向きかもしんないじゃん? 明日の『ランチタイムメガミックス』でさ、喋らせてみるんだよ、トヨサキくんを」

「明日の放送で彼を出演させる気は無かったんだけど」

「でもね、もみじ。『時間は待ってくれない』っていう永遠の真理があって」

「だったらモネが明日の放送に出てよ。わたし、パーソナリティ譲る」

「良いの? ホントに」

いつの間にか腕組みの中川部長。

そんな彼女に、

「マジで良いの?? トヨサキくん、わたしが『貰っちゃう』よ!?」

とモネ先輩が畳み掛ける。

『うわぁ……』と口を半開きにした放送部部長。

モネ先輩はさらにさらに、

「『こんなに年下好きだなんて、今までネコをかぶってたんだね』ってわたしに言いたげな顔だね、もみじぃ〜」

 

これ、収拾、つくの。

つかないよね。

明日以降のおれの命運、いったいどうなっちゃうの……。