【愛の◯◯】バイトの元・後輩は手強いけれど

 

かつてのバイトの後輩である綾乃(あやの)と会う約束をしていた。

 

某ファーストフード店。

注文して、トレーを受け取って、2階席まで運ぶ。

綾乃が隅っこの席に向かっていくので、わたしも従う。

ソファ側の席につく綾乃。

椅子席について綾乃と向かい合うわたし。

わたしのトレーには1個のハンバーガーと1個のフライドポテトとコーラ。

綾乃のトレーには3個のハンバーガーとファンタメロン。

「綾乃」

呼び掛けて、

「とりあえず食べましょっか」

と促す。

「そうですね」

と綾乃。

少しシリアスな含みのある声。

 

3個目のハンバーガーを食べながら、

「どうしてバイト辞めちゃったんですか」

と綾乃が言ってきた。

「辞める理由なら、辞めるときにちゃんと伝えたでしょ?」

綾乃はハンバーガーの残りをモグモグする。

食べ切って、勢いよくファンタメロンを飲む。

それから、右手を握って、テーブルの端をこつん、と叩く。

「いまだに納得できてないのね」

元・後輩は少し目線を上げ、

「納得できるほうがおかしいです」

と言う。

「侑(ゆう)さんが居ないと、全然張り合いが無いですよ。侑さんみたいにグイグイみんなを引っ張っていくリーダーシップのあるヒト、今はだれも居ないんだもん」

わたしは柔らかく、

「そっか」

と言い、綾乃の顔を眺める。

わたしより童顔。

黒髪なのはわたしと同じだけど、綾乃のほうが短め。

「なんだか、今の侑さん……バイト一緒にしてた頃の『カッコ良さ』が、あんまり感じられない」

前のめりに、わたしと視線を合わせてきて、

「侑さんが侑さんじゃないみたい」

すぐに、

「わたしはわたしよ」

と返す。

返された綾乃は、少し困り顔を見せながらも、

「わたしをグイグイ引っ張ってたときの侑さんが、どっかに行っちゃったみたいで……」

そうなのね。

綾乃は、そんな風に、わたしを捉えてるのね。

で、グイグイ引っ張ってたときのわたしに、戻ってほしいんだ。

……でもね。

でもね、綾乃。

実は、かなり無理してたの。綾乃と一緒にバイトしてたとき。

あなたは、わたしのリーダーシップを尊敬してたかもしれないけど。

わたし、あのとき……『つらさ』と、背中合わせだったのよ。

コーラのストローを口に含む。

氷がだいぶ溶けていた。

ストローから口を離してから、

「カッコ良く無くなったかもしれないけど」

と言い、それから、

「そのぶん、優しくなれたってコトよ」

全然納得できないご様子の綾乃は、

「優しい侑さんなんか侑さんじゃないです!!」

と、喚くように言う。

「落ち着きなさいよ」

たしなめるけど、依然綾乃はピリピリ状態。

「落ち着きなさい」

今度はもっと真面目にたしなめてみる。

綾乃はビクリ、となって、

「すみません」

と謝ってくれた。

「あのね」

左腕で頬杖をつき、わたしは、

「とある『出会い』があって。それで、変わるコトができたの」

「変わる??」

「そう。変わるコトができて、良かったわ。ほんとうに良かったと思ってる」

綾乃は、声のトーンをかなり落として、

「もしかして……オトコのヒト、ですか」

わたしはあっさりと、

「違うわ。オンナ友だち」

綾乃が無言になる。

考えを巡らせる素振りをわたしに見せたあとで、ちょっと険しい眼つきになって、

「……ヤキモチ、やいちゃうじゃないですか。」

 

× × ×

 

外に出る。

陽射しが明るい。

美味しい空気を吸う。

 

可愛い元・後輩が、小声で、

「……居ませんよね?? 侑さん」

「綾乃。主語、主語」

「……。

 気になる、オトコのヒト、とか。

 居ませんよね?? ……今は。」

 

詰めるのね……綾乃も。

 

綾乃のために笑顔になって、わたしは、

「なーいしょ」

と、軽くおフザケ混じりに、答えてあげた。