【愛の◯◯】わたしのパートナー 後輩ちゃんのパートナー候補

 

兄とおねーさんがふたり暮らしを始めて、お邸(やしき)から巣立っていった。

なんだか、兄の部屋の周りも、おねーさんの部屋の周りも、ひっそりと静まり返っているような気がする。

 

朝起きて、階下(した)に行こうとする。

おねーさんの部屋の前で立ち止まる。

兄の部屋の前でも立ち止まる。

『あーっ、あのふたりは、本当に邸(ここ)を巣立っていったんだな……』と思い、感慨深くなる。

 

× × ×

 

それはそうと。

6人から4人になったお邸(やしき)のことは、おいといて。

 

わたしの大学の近くに来ているのである。

水谷ソラちゃんを待っているのである。

彼女は部活の後輩だった子で、わたしの2個下。もうすぐ高3になる。

久しぶりに会うから、楽しみだ。

 

JR某駅を待ち合わせ場所としたわけであるが、ほぼ定刻ピッタリにソラちゃんはやって来てくれた。

「おはよう、ソラちゃん」

「おはようございます、あすか先輩」

「ま、もう正午前なんだけどね」

「そうでした」

わたしはソラちゃんの「いでたち」を隈(くま)なく見ていって、

「いい服着てるじゃん」

「そうですか!? ありがとうございます」

「帽子が――」

「帽子が?」

WBC仕様だ」

「あー、トレンド過ぎるかな」

「過ぎるってことはないと思うよ? WBCキャップかぶってくるっていうのも、ソラちゃんらしさだよ」

「なんだか、褒(ほ)めちぎられちゃってる」

えへへ。

 

「じゃあソラちゃん、まずお昼を食べよーか」

「ハイ」

 

× × ×

 

美味しい昼食を味わったあとで、まだあまり認知されていない穴場のカフェにソラちゃんを案内する。

「オープンしたばっかりだから、知ってる人がまだ多くないんだ」

向かいの席のソラちゃんに言うわたし。

わたしはブレンドコーヒーで、ソラちゃんはカプチーノだ。

カプチーノを少し飲んでから、

「あすか先輩って、コーヒーに砂糖ミルク入れる派でしたっけ?」

とソラちゃんが訊いてくる。

手をつけていないコーヒーカップを見つつ、

「基本はそう。でも、今日はどうしよっかな。ブラックコーヒーにチャレンジしてみよっかな」

「先輩のお好きなように」

「じゃあ砂糖を少しだけ」

ほんの少しの砂糖をコーヒーに投入するわたし。

それからカップを口に持っていって、まったりと味わう。

大学生らしく、大人っぽく。

そんな味わいかたをしてみる。

4月から高校3年の後輩が、

「あすか先輩、なんだかオトナ」

と言ってくれる。

「えっへん」

わざとらしいリアクションをするわたし。

「先輩も――6月にはハタチになるんですよね」

「迫ってるね、ハタチ」

「時の流れは速い」

「ほんとほんと!」

「速い時の流れの中で――」

んっ?

「宮島先輩っていうパートナーも、先輩にはできて」

おーーっ。

いきなりミヤジのことで揺さぶってきますかー。

まあ。

まあね。

後輩ちゃんだって、気になるんだよね。

尊敬する先輩に彼氏ができて、しかもその彼氏が高校時代の同級生ときたら、そりゃあねえ。

微笑ましい。

微笑ましいし、かわいいじゃん?

だから、許してあげる。

べつだん動揺もしない。

余裕で冷静さを保てる。

そして。

せっかく後輩ちゃんが、こんなふうな話題を持ち出してきてくれているんだから――「お返し」をしてあげなきゃな、とも思うワケで。

 

「わたしのパートナーは、優秀ではないけど、善良なんだ」

とりあえずそう言ってから、コーヒーを飲み、カップを静かに置く。

「善良、ですか~」

とソラちゃん。

「うん、善良」

相づちを打つ。

打って、それから、

「ソラちゃんもさぁ……」

と右腕で頬杖をつきながら言い、それからそれから、

「作ればいいじゃん。パートナーを」

と、ズバッと切り込んでみる。

 

「ぱ……ぱーとなー……を、わ、わたしが……??」

 

唖然とするソラちゃん。

なーんか以前にも、こんな状況になったことがある気もするな……と思いつつも、

「いるでしょ、ひとり。候補が」

と、コトバを彼女に食い込ませる。

アワアワして、なにも言えない彼女。

ダメを押すに決まっていて、

「部活の同級生に……いるよね。

 ソラちゃんの、男子の部活仲間は……ひとりだけ。」

と、完全なるカウンターパンチを、わたしはやり遂げるのであった。