「メリークリスマス、利比古」
「…ちょっと早くない、お姉ちゃん? まだ、イブの朝なんだよ」
「まぁまぁ、細かいことは」
「…適当な」
「適当でなにが悪いのかしら?」
あのねえっ……。
「りょ……旅行の準備しなくていいの、お姉ちゃんは」
「焦らないのがモットーなの」
「ず、ずいぶん有る事無い事言うよね、お姉ちゃんも」
「エエエェッ」
「……不用意だった? 不用意なこと言っちゃってたら、ごめん」
「利比古」
ジッと見てきた。
ぼくの視線と姉の視線がガチャン、と合わさる。
次になにを…言われるか。
「わたしも焦らないけど、あんたも焦りは禁物よ」
と言う姉。
「……う、うん」
と相づちを打つしかない、が、
「焦ってもいけないし、慌ててもいけない。
だけど、急ぐことは、必要かもしれない」
と言ってくる、姉。
難しいこと言うなあ……と思っていると、
「あんたなら、今言ったことのニュアンス、いつかきっと分かるはず」
と言い足された。
× × ×
「新聞を取ってくるよ」
と言って、邸(やしき)の建物を出た。
『新聞当番』という概念があって――それはすなわち、朝、ポストに投函(とうかん)された新聞類を邸(いえ)の中まで運んでくる、という役目。
一般紙とスポーツ紙を合わせると、だいたい8紙以上になるので、意外に重労働なのである。
それだけ多くの新聞が毎朝投函されるので、必然的に邸(やしき)のポストは巨大である。
大きなバッグに大量の新聞を納める。
バッグを持ち上げ、『さぁ、中に戻るぞ――』と、踵(きびす)を返そうとした。
踵を返そうとした、瞬間。
信じられない光景が眼に入ってきて、
ドサリ、というバッグの落下音とともに、ぼくはその場に立ち尽くした……!