土曜午前。
猪熊家。
ヒバリのノック音。
『姉ちゃん』
「どうしたの、ヒバリ」
『洗濯物』
「?!?! あ、あなたが、わたしの、せんたくものを、わたしの、へやまで……?!」
『バカじゃねーのか姉ちゃん』
「わ、わたし、バカじゃないわよ」
『だったら、わかるだろ。
おれが姉ちゃんの洗濯物を運んできたわけじゃねーよ。
母さんが。
母さんが、姉ちゃんに、自分の洗濯物を取りに来てほしいって。1階まで』
ああっ……。
わたしとしたことが……。
× × ×
お母さんから受け取った洗濯物を収納したあとの、わたしの部屋。
眼の前でヒバリが、あぐらをかいている。
「なんでおれを、部屋に入れたわけ」
可愛くない顔ね……。
「わたし、あなたに言いたいことがあるの」
「口を開けばお説教か」
生意気ね……。
「…紛らわしい言葉遣いはやめなさい、ってことよ」
「え? さっきの、洗濯物のやり取りのこと?」
「そう。そのこと。
『洗濯物』ってひとこと言っただけじゃ、ダメっ」
「ダメなのなら、どう言えば良かったのさ」
「『洗濯物を取りに来いって母さんが言ってるよ』。
こう、きちんと伝えればいいのよ」
「……」
「な、なんなのヒバリ、不機嫌さが増したような顔で……」
「姉ちゃん。
おれはそんなにテキトーに見えるか」
……。
「見える……とも、言える」
「ハッキリしねえな~」
「だって……。
コトバはもっと、大事に使うべきだって思うし」
「ふーん」
「……」
「マジメだな、姉ちゃんは」
「……べつに?」
「隠しても、ムダだぜ」
「む、ムダなんかじゃないもんっ」
「おー。
姉ちゃんのリアクションが、子供っぽくなった」
……失敗だったのかしら、部屋に入れたのは。